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社説 賃貸住宅の住まい方改革 今こそコロナ対応を前面に

 コロナウイルス流行を機に始まった住まい方改革は、これまでのところマンションでも戸建て住宅でも、持ち家が中心となっているきらいがある。しかし日本の住宅ストックの約4割は賃貸住宅で、その8割が民間賃貸住宅だ。確かにコロナを機に始まった住まい方改革は、在宅ワークのためのスペース確保や間取り変更、ウイルスを室内に持ち込まないための設備や動線の変更などいずれも賃貸住宅入居者の立場では対応が難しい。そのため議論が持ち家に傾いてしまいがちだが、むしろ、今は賃貸住宅の魅力を一気に高める好機とすべきだ。

 一般的にコロナ対応を施した住まいを新たに求めることができる経済的資力のある人は限られており、既存の住宅を改修するにしてもそれなりの資金が必要になる。その点、賃貸住宅はオーナーと入居者が分かれているので、これから建設しようとしているオーナーであればコロナ対応を前面に打ち出すことで既存の賃貸住宅との差別化を図ることが可能であり、これは社会貢献にもなる。

 また、賃貸住宅ではもともと、入居者が退去した際には一定のリフォームや修繕が必要になる。もちろんオーナーの資力にもよるが、持ち家に住む人がリフォームするハードルに比べれば、新たな入居者を確保するための投資と考えればその抵抗感は低いのではないだろうか。例えば、クロスを抗菌タイプに張り替えたり、消毒設備を設けることも考えられる。また、在宅勤務が増える中、限られた面積の居室内ではワークスペースを確保するのは難しいため、空き住戸をその建物の入居者専用のワークスペースとして提供したり、エントランスの一角に電話ボックス型のテレワークブースを設けるのも周辺物件との差別化策として有効ではないか。

 賃貸住宅という住まいの魅力は、利用者側から見れば、最新の設備や時代的ニーズを備えているところにあるべきではないか。例えばレンタカーにカーナビやドライブレコーダーが装着されていないことが考えにくいのと同様だ。そう考えればコロナによって住まい方改革が促されている今の状況は、賃貸住宅市場に大きな変革をもたらす好機と捉えるべきだろう。

 日本ではいまだに、「賃貸住宅は持ち家に移るまでの仮住まい」という認識が強い。供給側も賃貸住宅か持ち家かにかかわらず、安心・快適に暮らせる住まいを追求すべき時代だ。

 折しも今年6月には、賃貸住宅管理業法(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律)に基づく管理業者の登録制度がスタートする。登録には業務管理者の設置が要件で、賃貸不動産経営管理士や宅地建物取引士が想定されている。コロナ対応を賃貸住宅の魅力を高める好機とするためにも、賃貸住宅経営の専門家が果たすべき役割は大きい。