総合

この人に聞く JLLリサーチ事業部チーフアナリスト 谷口学氏 東京圏、高い市場成熟度 物流施設需給ひっ迫続く

 新型コロナウイルスの影響による外出自粛でEコマースが拡大し、改めて物流施設への関心が高まった。着工件数は増加し、引き合いも活発化する。物流不動産における市場感や需給バランス、今後の展望について、ジョーンズ ラング ラサール(JLL)リサーチ事業部チーフアナリストの谷口学氏に話を聞いた。(聞き手=古賀和之)

 ――物流不動産市場の全体像を教えてほしい。

 「(この10年、延べ床面積は)全体で2割程度増えている。東京圏が伸びており、大阪圏と名古屋圏の全体に占める割合はあまり変わらないが、面積自体は当然増加している。築年別で見れば、東京圏に新しい物件が多く、半分程度が2000年以降の竣工になる。開発・賃貸・売買のマーケットの成熟度では東京圏が進んでおり、大阪圏がその後を追いかけている」

 ――市場でのポイントは。

 「(自用ではなく)賃貸の物件かどうかが大きい。REITやファンドに売却する物件は賃貸。その割合は東京圏が最も高く、伸びてもいる。大阪圏や名古屋圏は東京圏と比較すると、マーケットの中で賃貸はまだ一般的ではない。ただ、賃貸の割合は大阪圏や名古屋圏でも今後5年間で増えていくと見ている。実際に大阪圏は最近顕著に増えており、名古屋圏はこれからというところ」

 「東京圏や大阪圏で賃貸の割合が増えているのはEコマースの普及に加え、スーパーマーケットやドラッグストアなどの影響がある。新しい拠点を出し、その周辺に物流施設を確保する戦略だ。(立地戦略の)柔軟性を求めて賃貸で使うことが多い。一方、名古屋圏は自動車産業を中心に製造業が盛ん。工場の近くに自社で倉庫をつくるケースが多い。まだ、消費者系の物流ユーザーはそれほど増えてはいない」

 ――今後の需給関係は。

 「東京圏では供給は多いが、需要も非常に増えている。需給がひっ迫した状況が少なくとも22年まで続き、23年もひっ迫しそうな状況になってきている。需給バランスが崩れる兆しはまだ見えない。大阪圏も需給バランスはひっ迫する。名古屋圏は22年に物件供給が重なり、以降も供給が増える見通しだ。大量供給が起き、周辺のユーザーが使用・拡張することでマーケットも成熟していくのではないか」

 ――過剰な投資は利回りの低下を生まないか。

 「キャップレート(還元利回り)の低下は09年から続いている。例えば、J―REITでは4%程度の利回りで物件を取得するのが一般的だったので、3.5%の利回りでは買えないということも起きる。利回りが低くても、REITに似たオープンエンド型ファンドを組成する事例もあり、別に仕組みを考える必要があるかもしれない。また、投資家の属性にもよるが、開発から参加したがる。開発物件の売却は利益率も高い」

 ――新型コロナの影響で変わっていくものはあるか。

 「コロナを契機に新しく変わるというよりは、今までの傾向が加速する現象が起きる。例えば、Eコマースの加速は短期的には需要の急激な拡大によるものだが、これからは販売チャネルの確保、リスク分散の観点から、企業側からの取り組みが拡大するのではないか」