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社説 業界のコロナ対応 国民の意識変容に踏み込むとき

 コロナの感染拡大が止まらない。住宅・不動産市場への影響はこれから本格化する恐れさえ出てきている。〝第3波〟の襲来で自粛生活が長期化すれば国民の意識は一段と委縮する。新型コロナの住宅不動産市場への影響は予断を許さない状況に入ったと言うべきだろう。

 今回のパンデミック・コロナ災禍は人々の意識を大きく変えた。日本人についていえば、東日本大震災以降は「予期もしないようなことが毎年のように起こる時代になった」という不安を多くの人が募らせている。そうした漠とした不安に加え、日本は今「不都合な現実」とも呼ぶべき様々な社会不安が存在している。加速する超高齢化、膨張する社会保障費、所得格差や貧困層の増大、老後の生活不安、年金破綻、財政問題、AIやロボットによる職の喪失不安など数え上げればきりがない。

 こうした不安増大が、高額な商品を扱う住宅・不動産業界を今後はボディブローのように襲う可能性がある。住宅・不動産業界のこれまでのコロナ対応策は、在宅勤務のためのスペースや個室の研究、防音性能の向上などハード面での対策にとどまっている。

 しかし、目には見えない国民の意識にまで踏み込んだ対応も必要なのではないか。特に生き残り競争が激しい中堅以下の企業には他社が踏み込まない次元での戦略こそ有効と考える。

 人々の意識が変われば住まいに対するニーズや価値観も変わる。テレワークによる働き方革命は、働く側から見れば空間と時間からの解放であり、それが住まいの選択に及ぼす影響はまだどの企業も研究していない。また、家族のあり方、家族とのつながり方を見直す意識が高まれば、住まいをハードの良し悪しではなく、どういう〝暮らし〟が望ましいかという価値観で選ぶようになるのではないだろうか。価値観には「都心の立地なら資産価値が下がりにくい」「大手不動産会社の分譲だから安心」といった一般的価値観もあるが、より肝心なのは、「自分はこういう価値観を大切にしていきたい」「だからこの家を選んだ」と言えるような独自の価値基準ではないだろうか。

 例えば、「住むほどに愛着が増すような家」「囲い込むのでなく、外とつながったオープンな暮らしがしたい」「感性が研ぎ澄まされ、生きる活力が湧いてくる家」等々。コロナで人々の意識が生き方や暮らし方に深く目を向け始めた今こそ、住宅・不動産業界はこれからの住まいやオフィスのあり方をゼロベースで考えるときだと思う。少なくともその意義がこのコロナ下にはある。国民があてどない不安を抱いている今こそ、生活の基盤である住まいや働く場を提供している業界自身の意識改革が求められている。それが国民の強い信頼を得る、かつてないチャンスになると考えるからである。