注文住宅の受注が回復傾向にある。最新の8月の主要ハウスメーカーは、前年同月比で増加や横ばいが目立つ。積水ハウス、旭化成ホームズが横ばい、大和ハウス工業が1%増、住友林業が18%増、ミサワホームが9%増となった。緊急事態宣言下で住宅展示場の一時閉鎖を余儀なくされて進まなかった商談が、6月以降の展示場の再開やウェブ商談の定着などにより進展するようになったことが大きな要因だ。
積水ハウスの仲井嘉浩社長は、「戸建て住宅への関心が高まっている」と話す。在宅勤務を経験し、住宅で過ごす時間が増えたことで、より広い住宅へのニーズが高まり、コロナ前よりも消費者が戸建て住宅を高く評価するようになった。郊外の住まいの見直しの動きも広がっている。郊外の戸建て住宅や新築マンションは、同じ予算であれば、都心部より広い住宅を取得可能だからだ。中古マンション価格も回復基調にあり、郊外の戸建て住宅と共に回復が早いと見る業界関係者もいる。
更に、リフォームへの関心も高まっている。在宅勤務になり共働きなどで、住まいに働く場がないことに不便を感じるようになったため、内装のリフォーム需要が増えているという。新型コロナが住まいにもたらした変化は、資産性や利便性に加え、住まいの広さや住環境という評価軸を見直す契機にもなった。
では、こうした動きが今後も続くのだろうか。不動産協会の菰田正信理事長は、マンション需要の底堅さは、自粛で止まっていた実需が出ているためで、秋以降もマンション価格の下落や販売不調になるという兆候は見られないとする。だが、企業業績の悪化で所得環境悪化や雇用の不安が表面化し、価格面で折り合わなくなれば、マンション市場が低迷しかねないと懸念を示す。内需を支える住宅市場の低迷は、日本経済のコロナからの再生にとって足かせになりかねない。
コロナ禍が住宅にもたらしたものは、マイナスばかりではない。郊外で住むことの価値を一般消費者に再認識させたことは、地方の価値を再認識させることにもつながる。菅新政権が重視する地方創生を進める上で、今後の都市と地方のあり方の議論にもプラスになるだろう。ただ、これらは、国民が経済的な不安を抱えず、安心して住宅を取得することができる環境があることが前提だ。
経済波及効果が大きな住宅取得への支援と共に、コロナによる所得・雇用不安を解消し、住宅を取得できる環境を整えることが重要になる。年末にかけて議論される税制・予算において、所得・雇用不安を解消する経済対策の具体化で、テレワークなど在宅勤務の普及により多様化している住宅需要を刺激するのではないか。コロナを奇貨とした多様化する住まいへのニーズを縮ませてはならない。