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社説 ウィズコロナ時代、オフィスは不要か 「雑談」ができる場に価値

 新型コロナの影響でテレワークが普及し、オフィス不要論もささやかれ始めた。それを裏付けるように、富士通が3年をめどにオフィスの面積を半減すると発表した。テレワークによる在宅勤務が増え、出社する社員が減り、全員出社を前提とした今のオフィスの面積は必要ないとの判断なのだろう。三幸エステートのオフィスビル総合研究所によれば、都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)のオフィスの空室率が23年第1四半期には4.8%に上昇するとの予想が示されている。全社員がオンラインで働くようになったサイボウズの青野慶久社長は、6月23日にNHKで放送した番組内で、仕事をする上でウィズコロナ時代の要らないものとしてオフィスを挙げた。今後、テレワークの定着と共にオフィスの賃貸契約更新を機にオフィスの縮小を図る企業が増える可能性もある。

 一方、オフィスの面積は大きく変化することはないという指摘もある。オフィスのウイルス感染症対策として必要なソーシャルディスタンスを確保するには、1人当たりのオフィス面積を増やして、一人ひとりの机の間隔を空ける必要があるため、トータルのオフィスの面積は大きく変わらないからだ。米国のテレビ番組に出演したグーグルのエリック・シュミット元CEOは、感染症対策でより広いオフィスの必要性を指摘し、グーグルが1人当たりの床面積を増やす動きが出ているとの話もあるという。在宅勤務による生産性低下などを理由に、伊藤忠商事やキーエンスは原則出社に戻した。

 では、これらを踏まえた上で、これからのオフィスに求められるものは何か。キーワードの一つになるのが「雑談」だ。サイボウズの青野社長は、先の番組内でウィズコロナ時代に要るものとして「雑談」を挙げた。全社員オンラインで働き始めて雑談の機会がなくなったため、サイボウズは「雨の音がすごい」など何気ない雑談をITで復活させた。

 グーグルによると、イノベーションがオフィスでの社員同士の何気ない会話から生まれたということがデータ分析を基にした調査・研究で分かったという。そして、グーグルは、新型コロナが拡大した今年5月に社員に向けて、イノベーションが生まれるオフィスを失いたくないとのメッセージを出した。不動産サービス会社のCBREによれば、対面コミュニケーションによる「雑談」は、新しいアイデアやイノベーションを生む機会となっていると指摘する。

 テレワークが進んだからといって、オフィスが不要になるとは限らない。ただ、「雑談」ができないようなオフィスが不要になるのは確かだ。新たなアイデアやイノベーションを生む「雑談」ができるオフィスは、ウィズコロナ時代において価値の高い場となるのは明らかだ。