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社説 テレワーク普及で進むIT化 〝消滅職業〟危機に備える

 緊急事態宣言が全面解除されたが、経済への影響は深刻さを増しており、早急な経済活動の正常化が喫緊の課題だ。しかしパンデミックを経験した後の社会・経済は、第2波リスクとコロナ共存を余儀なくされる。従前の生活様式や働き方が大きな変化を迫られるのは必至で、安全・安心と生産性向上のバランスのとれた新しい日常と向き合わなければならない。

 コロナ禍で新しい働き方として台頭してきたのがテレワークだ。働き方改革において多様な働き方の実現が掲げられており、テレワークはその布石として推進されている。コロナ禍で日本を代表する大手企業も相次ぎテレワークに舵を切った。不動産業界でも大手中小を問わず一気に広まり、オンラインによる非対面営業やウェブ会議、業務効率化のためのIT活用などが急ピッチで進んだ。

 国土交通省が毎年実施している「テレワーク人口実態調査」(19年10~11月調査、有効回答4万人)によると、雇用型就業者のテレワーカーの割合は9.8%(前年比1.0%減)にとどまった。業種別では、情報通信業(35.8%)が最も高く、次いで学術研究、専門・技術サービス業(29.5%)が続いた。不動産業のテレワーカー割合も14.2%と平均を上回ったが、全17業種中で上位から8番目と中位にランクしている。

 テレワークがIT化を加速させた流れは、重要事項説明のIT化をはじめとしてAI・IoTの導入を推進している不動産業にとって短期的には追い風となることは明らかだ。半面、業務のIT化が進むことは、雇用の消失という問題も同時に内包している。これは、英国のオックスフォード大学教授が米国を想定して14年に発表した論文の中で、10年以内にコンピューターにとって代わられるだろう不動産ブローカーを含む702の職業がリストアップされた。不動産ブローカーは97%の確率でなくなる仕事として上位に位置付けられた。

 テレワークやそれに伴うIT化が進んだ不動産業界からは、準備不足は否めないものの、「業務効率が上がった」「業務にかかる時間が短縮できた」という声が聞かれた。IT活用により生産性が向上したことは明らかで、通勤や移動の時間が節約できたことなども影響したと見られる。一方で人と人との触れ合いや接触、対面による会話のメリットが再認識されたことも好材料だ。

 コロナ収束後は、生産性が向上した分、省力化できた時間を仕事にどう組み込むか、人と機械化の役割の仕分けが重要になってくる。人にしかできない仕事はますます狭められていくが、人がするべきこと、人が行うほうがより大きな成果が得られることを見つけ出すことだ。これを怠れば論文が示す通り、米国で不動産ブローカー(仲介)が4年後にいなくなり、日本でも同様のことが起こるかもしれない。