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社説 コロナ危機をどう克服するか 〝場〟の意味を問い直す

 新型コロナウイルスによる脅威はその深刻さを増しつつある。住宅・不動産業界はこの危機にどう立ち向かうべきか。2月25日号の弊紙社説では「落とし穴にはまらぬためには、早めの対策を」と訴えた。その一つに挙げていたのが、「マンションやオフィス供給計画の見直し」である。

 既に深刻な事態となっている経済的ダメージによって、国民の住宅取得マインドはかつてないほど悪化していると見るべきだろう。国は4月16日、全国に緊急事態宣言を出すことを決めたが、国民の多くは「遅きに失した」との感触を抱いており、「既に手遅れになっているのでは」という不安も国民の間に広まりつつある。もし一応の期限とされている大型連休明け後も宣言が継続されるような事態に陥れば、国民の不安は一段と加速し住宅取得マインドは一段と冷え込まざるを得ないだろう。それだけではない。緊急事態宣言がその後解除されたとしても人口が密集する大都市〝東京〟に対する不安が一気に解消するはずもなく、茫漠とした警戒感が澱(おり)のように人々の心の底に沈殿していくのではないか。住宅・不動産業界はそのこと自体を深刻な危機と受け止めなければならない。 

 今後30年以内に7割の確率で起こると言われている首都直下型地震の被害予想(シミュレーション)が公表されたときにはパニックに至らなかったのは、それがあくまでも〝推測の域〟にあったからだ。しかし、今回の緊急事態宣言によって、日本人の想定外の事態に対する危機意識が変容しつつあることに注意を要するだろう。

 言うまでもなく今回の危機は国内の問題というよりも世界的パニックである。サブプライムローンに端を発したリーマンショックを上回る戦後最大の危機となっている。しかし、我が国の不動産業はリーマンショックも、古くは90年代初頭のバブル崩壊も乗り越え立ち直ることができた。証券化やIT化など社会が求める新たな需要の発掘に真剣に取り組んできたからだ。そうした視点に立てば今回のコロナ危機も克服することができる。

 例えば、今後不動産業界に大きな影響をもたらす変化として注目されるのが「在宅勤務」の普及である。今回は緊急避難的に導入した企業が多かったが、コロナ収束後は元に戻るのではなく、むしろ一段と加速させる企業が大企業を中心に出てくるだろう。

 従来のように高い固定費をかけて都心に大型オフィスを設け、社員を通勤させるというスタイルが大幅に見直されることになる。膨大な時間ロスを伴う〝通勤(痛勤)〟が消え去る日もいずれやってくるのだと思う。つまり、オフィス市場はコペルニクス的転回を余儀なくされる。不動産業界が見直すべき今後のオフィス供給計画は量ではなく、働き方改革の先の先を見越した質的探究でなければならない。