総合

大言小語 祭りのあと

 時計の針がカチッ、カチッと刻む時間は世の人々の平均時間だ。個々の人間が感じる時間は伸びたり縮んだりする。長かった一日もあれば、あっという間の一カ月もある。ただし、今年は東京オリンピックの年。開催までのカウントダウンは人々の心を一つにする。

 ▼昨年、「ワンチーム」という言葉がはやったが、裏返せば心が一つになれない組織や職場が増えているということか。M&Aが頻発したり、非正規社員が全体の4割に達するなど一昔前とは様変わりの企業社会だが、効率重視の狙いが本当に果たされているのか、あやしいものだ。

 ▼近年、企業の成長戦略として欠かせないキーワードが「顧客体験」という言葉である。顧客が企業と接するあらゆる段階での体験の質に注目する。商品やサービスを買ったときだけに満足してもらえばいいという戦術はもはや通用しない時代になったという。その背景にあるのは、誠実さや真心の領域で、顧客と企業との心(価値観)が一つになってこそ、企業が成長できるという発想である。

 ▼オリンピック開催までいよいよ半年を切った。気になるのは、祭りが終わったあとだが、景気がどうなるかではなく、人々の心がバラバラになりはしないかという点である。56年前のときは、高度経済成長による所得倍増計画で日本人の意識がまとまっていたが、今回は心を一つに束ねる箍(たが)はあるのだろうか。