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社説 転換期の賃貸住宅ビジネス 業務改革で活路を開く

 今年は、賃貸取引におけるIT化の動きが加速すると見られ、賃貸住宅ビジネスの大きな転換の年となりそうだ。これまでの仲介のスタイルを大きく変えることにつながるのは明らかで、人口・世帯の減少、少子高齢化、空き家の急増など閉そく感が漂う賃貸住宅ビジネスに再び活路を開くチャンスとも見てとれる。

 賃貸業務におけるIT化では、既にIT技術を活用して入居予定者に非対面で重要事項説明を行う社会実験が終了、本格運用も始まり一定の広がりを見せている。これに続いて重要事項説明書等の35条書面、37条書面の電子書面の交付についても約3カ月ほどの期間で社会実験が近く予定されている。こうした動きを見据え、早くも内覧から入居までのすべての手続きを人の手を介さずに完全非対面で完結できる賃貸物件もこのほど発表された。サブリースの特定物件という条件付きながら、大手ディベロッパーが自社グループ内の取り組みとして初の運用開始に踏み切った。

 オーナーサイドにもIT化の新たな変化がうかがえる。仲介業者を介さずに個人間取引のネットサービスを活用して入居者募集を目指そうとするオーナーがじわりじわりと台頭してきたことだ。ネットの個人間直取引は、他の物販市場ではもはや活発に行われており、オーナー主導の新しい募集形態として賃貸取引においても今後広がりを見せる可能性を秘めている。

 更に消費の中心を占めるようになってきたデジタル世代のユーザー拡大もあり、不動産取引のIT化も社会の要請といえる。電子書面交付の社会実験で一定の実績が得られれば、募集から入居に至る一連の賃貸業務は完全IT化へ大きく前進することになる。

 一方賃貸ビジネスの両輪である賃貸住宅管理でも、管理業者登録制度の法制化が待ったなしだ。依然として続発する賃貸トラブルをはじめ空き家の増加、オーナーの高齢化への対応などが急がれているためだ。サブリース問題が噴出したこともあり法制化は喫緊の課題となっており、年度内にも法案提出との声も聞かれる。

 仲介と管理にまたがる2つの大きな流れは、分業に近い賃貸住宅ビジネスに構造変化をもたらすことが濃厚だ。IT化によって仲介業務の省力化が進む一方、法制化が見込まれる賃貸管理業務の比重が高まるのは明らかだ。仲介も管理もユーザーから選ばれるために、いかに物件価値を高められるか、的確にそれを伝えられるかに本質がある。その本質に向かって仲介と管理の垣根がなくなっていく可能性もある。構造変化に対応する業務改革が必要とされる点では大手も中小も、都市も地方も同じスタート地点にいると言ってよい。資本力や市場性による違いはあるにしても、賃貸住宅ビジネスのチャンスは平等に広がっている。