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社説 定期借家普及の好機に 事前説明と重説は兼ねても可

 定期借家権の普及を拒んでいた要因の一つに、従来から「事前説明は重要事項説明とは別個に書面をもって行われなければならない」という解釈がなされてきたことがある。そのことが、定期借家は手続きが煩瑣との印象を宅建業者に抱かせてきた。しかし、7月18日に開かれた「定期借家推進協議会」通常総会において行われた吉田修平弁護士と福井秀夫政策研究大学院大学教授による講演によれば、「重要事項説明と事前説明を兼ねることはもともと禁じられていなかった」ことが明らかにされた。

 改めて、「借地借家法第38条2項」を見るとこうある。「前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない」。

 これを素直に読めば、ここでいう書面と重要事項説明書を兼ねてはならないという解釈は生まれてこない。にもかかわらず、これまでそのように理解されてきた背景には、「定期借家権の普及に際しては、賃借人が不測の損害を被らないようにするため、慎重のうえにも慎重を重ねる必要がある」との考え方が当時、社会に充満していたためと思われる。

 今回、こうした法解釈上の誤解が解かれた契機となったのは、一般の賃貸借契約における「ITによる重要事項説明」が国土交通省によって認められたことである。これに伴い、「定期建物賃貸借に係る事前説明におけるITの活用等について」と題した国土交通省不動産業課長と住宅総合整備課長連名による通知が今年2月と7月に相次いで出された。そこで、定期借家推進協議会側が同省に、事前説明と重要事項説明との関係についても改めて確認したところ、今回の結論に至ったものである。

 では、実務上、重要事項説明書にどのような記載があれば、法律上も定期借家契約と認められることになるのか。国交省の2度に渡る通知を整理すればこうなる。

 「本件賃貸借については、借地借家法第38条第1項の規定に基づく定期建物賃貸借であり、契約の更新がなく、期間の満了により終了する」ことさえ記載されていれば、重要事項説明書が事前説明書を兼ねることが可能だ。

 今回の発表が業界に周知徹底されることで、これまでなかなか進まなかった定期借家権の普及に拍車がかかることを期待する。定期借家権の普及率は現在4%弱と低迷したままだが、定期借家権は不良入居者の排除などのほか、集合住宅にとって多様なメリットをもたらすことができるからである。