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社説 所有者不明土地の対策 利用しやすい土地情報基盤を

 自治体が推進する空き家対策、地域活性化事業などの公共事業や民間再開発事業の妨げになっていると、にわかに注目され、その対策が求められているのが所有者不明土地である。不動産登記簿などの所有者台帳では所有者を特定できないため、所有者を探索し、特定するのに多大な時間と費用がかかっていることに加え、断念せざるを得ない事態も発生するという。

 所有者不明土地が発生する一番の要因は相続の際、相続登記を行わず、放置したままにしていること。登記は任意の制度であり、例えば、親の家などを相続して住み続ける場合、「登記をしなくても何ら困らない」し、登記費用も節減できるからだ。バブル崩壊以降、土地の資産性が損なわれ続け、核家族化と少子高齢化、都市移住の増加なども背景にあるだろう。

 この問題は従来、過疎化がいち早く進展した、地価が安く、不動産売買もめったにない地方特有の問題だった。地域起こしのために山林や農地の集約化、耕作放棄地対策を進めようにも所有者不明土地の多いことが障害となった。再び注目されたのが東日本大震災で津波被害を受けた地域の復興事業。移転計画地に、所有者不明土地が非常に多くあったことで事業が遅れた。そして今度は都市部で自治体が進める空き家対策や民間再開発など公共性の高い事業の障害として浮上してきたのだ。

国交省部会で検討始まる

 事態を打開しようと、国土交通省は9月12日、国土審議会土地政策分科会第1回特別部会(委員長・山野目章夫早稲田大大学院教授)を開き、所有者不明土地問題の検討を開始した。「公共目的に利用するための新たな仕組み」を構築するのが目的で、必要な法案を整備する。年内に中間とりまとめを行い、次期国会に提出することを目指している。

 第1回会合では、所有者の探索を円滑にする仕組み、所有者不明のままの場合の円滑な土地利用の仕組み、所有者不明土地の発生予防と放棄された土地の管理責任の所在などの検討課題が示された。議論の中では、現行より簡易な手続きで利用できる制度づくりの必要性や、不動産登記の義務化などの意見が出された。実効性のある制度づくりを期待したい。

 当面する課題は、公共事業などでは、一定の手続きを踏むことで所有者不明土地を円滑に利用できる仕組みを確立すること。だが、この問題は図らずも我が国の現行の土地情報制度の不備などを表面化させている。次のステップとして、全国私有地の2割を占めるといわれる所有者不明土地を今後、どう減らしていくのかが問われてくる。そこまで踏み込んで解決のための道筋を示す必要がある。次代のためにも、幅広い土地の所有者が利用する、網羅性や信頼性の高い新たな土地情報制度を構築していく契機としたい。