政策

大言小語 明るかった茶の間

 人に言う言わぬは別にして老いると愚痴が多くなるのは人間の宿命だろうか。老いた者の気持ちは所詮、老いた者でなければ分からないからだ。とすれば、特別養護老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅のように、老人を一カ所に集めるやり方も、あながち目くじら立てるほどのことではないのかもしれない。

 ▼ある老人は3日とあげず近くの居酒屋に足を運ぶ。そこは裏路地にある小さな店で、50代とおぼしきマスターが一人でやっている。常連客が多く、囲碁仲間の高齢者軍団、同じ町に勤める中年のサラリーマン、時折顔を出し、マスターに礼儀正しい言葉で話し掛け、晩酌付きの夕食をあわただしく済ませて帰る女性もいる。老人はそうした馴染み客の脇で静かに酒を呑むだけだが、昔懐かしい茶の間や家族の雰囲気を思い出すのだという。

 ▼旧日本住宅公団(現都市再生機構)が戦後、食寝分離の「n+DK型間取り」を普及させたことで日本独特の畳に卓袱台の文化が消えた。住まいは機能性重視へと変わり始めた。共働きで夫婦は平等になり少子化も進んだから、なんだか家の中がフラットになった。

 ▼裏路地に通う老人は、カウンターがモノであふれ、椅子の上には新聞や雑誌が置かれた雑多な風景に、昔家族と食事や団らんを共にした狭い茶の間を見ているのかもしれない。そこには、年寄りも大勢の子供もいて、やはり明るい空気が満ちあふれていた。