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大言小語 〝本も人なり〟

 105年の命を生きた聖路加病院名誉院長の日野原重明氏が亡くなった。人には必ず死が訪れることを改めて思った。そして、死に方は生き方そのものであることも。 

 ▼夏休みが始まった。子供たちの楽しみは家族旅行か。しかし、どんなに遠いところに行っても、必ず家に帰ってくるそれを本当は〝旅〟とは言わない。戻る道がない寂しが旅である。だから、実は人生そのものが旅であることを大人は知っている。

 ▼約700年前、吉田兼好は〝住まいは人なり〟(徒然草)と言った。住まいを見ればおおよそ、その家の主(あるじ)のことが推察でき、なかなかいい趣味だなぁなどと思うことは味わい深い――といった意味だが、近年は中古住宅を買ってリノベーションをして、〝自分らしい〟住まいを手に入れようとする人たちが増えている。人は誰でも旅愁を抱いて生きているが、自分らしい住まいを持つことは、人生という旅の途中で心の通い合う伴侶を得るようなものだ。

 ▼家は主が死んだあともこの世に残る。その哀れを感じ取るのが日本人である。だから高齢者だけが取り残されたような郊外の戸建て団地には、住む人を失っても、そのまま放置されている空き家が多い。日野原氏には、「命」や「生き方」の大切さを語った著作が多い。そのうちのわずか数冊を通じてしか知り得なかった人柄だが、〝住まいは人なり、本も人なり〟である。