総合

社説 住宅市場の成長に向けて 新築、中古の垣根をなくそう

 新築市場に代わって中古市場の台頭が著しい。首都圏では16年に、中古マンションの成約件数が新築マンションの販売戸数を初めて上回り、中古市場の伸びを印象付けた。また、新築マンションの購入に際して、同時に中古マンションを検討するユーザーが近年著しく増えていることが国土交通省の住宅市場動向調査で分かった。いずれも新築の供給減少、販売価格の高止まりに伴って、新築から中古へ需要がシフトしつつあることの表れだ。

新築、中古が好循環

 中古流通活性化を目指す住宅政策が強力に推進されてきたことが背景にあるが、中古流通市場の成長には良質で安定的な新築の供給を欠かすことができない。優良ストックの源泉となる新築市場と、それらのストックを流通させる中古市場が好循環する、バランスのとれた住宅市場が目指すべき姿といえる。

 終戦間もなく、数の充足を最重点課題に掲げて新築供給を推し進める政策が始まった。やがて段階的に新築に適用されてきた防火や耐震、省エネルギーなどの性能基準が住宅の質を格段に向上させた。一定の広さを確保した新築の供給を促進する誘導居住水準も住生活の質の向上に大きく寄与した。これらに加えて流通制度の整備も進み、消費者が安心して中古住宅を選び、購入することができる今日の中古市場が形づくられた。市場縮小が見込まれる新築に代わり、中古住宅が市場のけん引役となることは正常な市場の姿に違いないが、とは言え一方に偏りすぎることも避けなければならない。かつて新築を最優先にしてきた住宅政策が、ひと頃の中古市場の未成熟さを招いたことからもそれは明らかだ。

住宅水準を向上

 新築が日本の住宅水準を引き上げてきたことは高く評価されるべきだが、これからも基本構造の向上を追求していくことは新築の永遠のテーマだ。しかし、「良質な住宅だから高い」では消費者の評価は得られない。コスト抑制の難題にも今まで以上に取り組むべきだ。近年は、マンションも注文住宅も新築価格が高止まりし、一般勤労世帯の需要とかい離しているとの指摘が多く聞かれる。また、一般向けに「新築VS中古」というキャッチコピーをよく見かけるが、これも消費者をミスリードしかねない。多様化しているニーズには、新築、中古という選択肢ではもはや応えきれなくなりつつあるからだ。

 経済的で快適に安心して暮らせる住まいであることは、新築、中古に等しく求められる。その上で、新築には生活を豊かにするための一層の工夫や付加価値付けが、一方の中古には長く住み継ぐための適切な維持管理や、経年の味わいといった付加価値が求められる。両者が車の両輪ようになって、住まいや暮らしのニーズに幅広く応えられることが、住宅市場が再び成長を始めるカギとなる。