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大言小語 ノーベル賞と新大統領

 昨年4月の来日公演では、ノーベル文学賞など思いもよらなかった。会場にいた誰もがそうだったに違いない。本人も含めて。

 ▼アメリカの公民権運動、ベトナム反戦など、カウンターカルチャーの英雄であったボブ・ディランも、既に75歳。「もうロックでもないよ」とばかりに、スタンドマイクで『枯葉』をシナトラばりに朗々と歌って見せた。2時間を歌いきったが、もうステージでギターは持たない。重いのだろうか。

 ▼60年代に始まったアメリカ国内の民主運動も、初の黒人大統領の誕生で頂点を迎えた。しかし、その反動からか、「背に腹は代えられない」とばかりに選ばれたのが今回のトランプ氏。格差が進んで、職さえも奪われたアメリカの階層が恥も外聞も捨てて、実利のために選んだ男、といったら言い過ぎか。はたして日本にはどんな影響を与えるのか。

 ▼ディランの曲がノーベル賞に評価されたということは、アメリカ民衆が歌い継いだ民俗の歌詞が評価されたということ。それはプアーホワイトや黒人たちが書き綴ってきた歌の数々。文学史でも評価されないビート詩人たちの影響も大。特にジャック・ケルアック。

 ▼今回、そうした民衆こそが、ドナルド・トランプを大統領に選んだ。ディランからトランプへ。アメリカの戦後は大きく様変わりする。

 ▼「時代は変わる」と、ディランなら言うだろう。