政策

社説 宅建業法改正 インスペクションを標準に

 宅地建物取引業法改正案が5月27日、参議院で成立した。既報の通り、今回の改正では建物状況調査(インスペクション)について、媒介契約時、重要事項説明時、契約書交付時にそれぞれ、調査業者のあっせんや実施結果、確認事項などを定めることになった。義務付けではないが、宅建業者であれば知っている事項でも、一般消費者には聞き馴染みがないインスペクションの一層の意識啓発につながるだろう。

 業界では、特に重要事項の説明時にどのように行うのか、契約書で売主、買主双方に確認させる事項とは――など実務上の運用などに注目が集まっているが、媒介契約時のあっせんも大きなポイントだ。媒介契約を結ぶ際に、インスペクション業者をあっせんできないと記してあれば、売主、買主から疑問も起こるだろう。提携先の具体的な事業者を記せる業者とは明らかに差別化されてしまう。国土交通省もこうした取引の初期の段階で、インスペクションを促し、特に売主側に実施させるよう広げていきたい考えだ。

 業界も既に動き出しており、大手仲介会社は建物診断サービスなどをスタート。元付けだけでなく、客付けにも対応する会社もある。中小業者の団体である全宅連、全日も、インスペクション業者などと提携。全国組織のスケールメリットを生かし、会員であれば安価に利用できる体制を整えた。

 更に、インスペクションの先までも見据えている。インスペクションは中古住宅の品質情報を消費者に提供して、不安を解消するものだが、仮に不具合がなかったと診断されても、後に瑕疵が発見されれば保証されるとは限らない。そこで、消費者の味方となるのが瑕疵保険だ。保険加入の可否を判定するには現場検査が必要となるが、これをインスペクションと位置づければ、消費者の負担が減ると共に、中古住宅の安心・安全な取引のために必要不可欠なインスペクションの普及が進む。

 問題は、インスペクションの基準や対象範囲、そして担い手だ。国交省は、法改正を受けて省令などで決定していく予定で、担い手には建築士で一定の講習修了者を想定している。現在、これと同等の能力を持つのが既存住宅現況検査技術者で、全国で1万700人登録している(16年3月末現在)。国交省の試算では10年後におけるインスペクションの需要を年間10万から20万件としており、十分まかなえるだけの人数だが、飛躍的に需要が増える可能性もあり、先を見据えた適切な対応を講じてほしい。

 今後、インスペクションが仲介業務に「標準装備」され、併せて中古住宅瑕疵保険の加入が進めば、消費者の安心・安全が担保され、中古住宅流通市場は活性、盛況へとつながるだろう。