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社説 低金利と贈与の追い風 実需が育つ住宅市場に

 消費税増税を乗り越えた住宅・不動産市況だが、今ひとつ回復の波に乗りきれていない。比較的、販売好調を維持しているのが富裕層や高所得層を主な対象とした高価格帯の住宅マーケットで、このマーケットに焦点をあてた商品の投入が活発になっている。その一方で住宅取得適齢期を迎えている子育て世帯を中心とする一般中堅所得層のマーケットは、高まる税負担、所得の伸び悩みが重くのしかかり、需要回復が遅れている。住宅を取得する環境は厳しさを増していく方向にあり、このボリュームマーケットの潜在需要を喚起できる住宅の供給にも力を注がなければ、市場の先細りを早めることになりかねない。

購入予算が1.5倍

 高価格帯のマンションが即日完売したり、高額な戸建て住宅の販売が好調な背景には、消費者の好立地志向の高まりや株価上昇効果などがある。比較的、資産価値が維持されやすい好立地の志向は、今に始まったものではなく、不動産や住宅の選択基準として王道とも言えるものだ。資産デフレが定着したことでより鮮明になったと言えるだろう。低金利と贈与の特例が加わった近年は、この傾向に更に拍車がかかっている。

 あるマーケティング会社の試算によると、エンドユーザーの購入可能な予算額は、11年当時の金利に比べて1.5倍近くにまで膨らんでいるという。東京都区部の標準的な新築マンションを例にとると、11年当時で単価250万円だった購入予算額は、金利の更なる引き下げ効果により現在は312万円に膨らんだ計算になる。これに1000万円相当の贈与を加算すると、単価は362万円まで一気に膨らむという。

生活スタイルの変化も

 また、若年層のライフスタイルの変化の影響も挙げられる。所得は伸びんでいても共稼ぎが増えて世帯年収が拡大していることや、ローンや維持費がかさむ自動車を持たない世帯が増えていることなども、実質的な購買力の底上げにつながっているという見方だ。こうした若年層の世帯がより利便性やアクセスの良い好立地、つまり高価格帯の住宅取得に行き着くのは当然の流れとも言える。

 低金利と贈与税の非課税枠の拡大は、住宅・不動産マーケットにとってまさに追い風である。消費税増税が1年半延期されたことで、再び購入機運の高まりも予想される。こうした市場環境のよさを生かしつつ、安定した実需層を育てていくためにも、マーケットをしっかり見据えた事業の練り直しに期待したい。