政策

社説 鑑定士試験制度の見直し 質の向上で魅力を伝えよ

 難関とされる不動産鑑定士の試験制度が変わりそうだ。国土交通省は昨年末から委員会を設置して、試験のあり方について検討を重ねてきている。理由は減少を続けている不動産鑑定士の受験生を回復することだが、そこには多くの課題が横たわっている。

減少傾向の受験者

 不動産鑑定士の試験制度は、06年度に見直しが行われており、現在は行政法規と鑑定理論を問う短答式試験に合格後、論文式試験が3日間にわたって行われる。ここでは民法、経済学、会計学、鑑定理論の4科目が試される。合格後は、さらに最短で1年間の実務修習を経たうえで、国交大臣による修了認定を受け、初めて不動産鑑定士として登録される。高いハードルが課されているのは、不動産の鑑定評価に対する難易度と責任の重さの現れである。

 しかしながら受験者は、短答式で12年に2000人だったものが、昨年は1500人余りにまで減っている。論文試験も12年は910人だったが昨年には745人となっている。最終的な合格者は昨年84人でしかない。

 受験者減少の結果、鑑定士の年齢構成がいびつになっている。現在は団塊の世代が最も多く、後は40歳前後が次の山になっている。

 減少の理由は、いくつかある。試験の難易度が高いうえ、鑑定士になるまで時間がかかる。加えて専門学校での学習費用も少なくない。ただ、これらは今に始まったことではない。別の視点では鑑定業界の市場規模が縮小傾向にあることも、敬遠される一因であることが見えてくる。

科目別の合格制度も

 見直しでは、受験者の負担を減らすために、これまで一度も出題されたことがない法律などは除外するほか、税理士試験のように科目別に合格を判定していく案も浮上している。

 06年の見直し前は、2年の実務経験も課されていた。これがなくなったことで合格者のレベルが下がった、という指摘もある。今回の見直しにあたっては、受験者数を確保するのが優先して、ハードルが下がってはならない。

 鑑定業界では11年に将来ビジョンを作成している。多様化している社会ニーズに応えられる産業としての確立を目指しており、さらに深掘りする必要がある。

 鑑定評価に関する法律が公布されたのは1963年。50年を超えた今、地価公示や固定資産税評価などの公的評価に大きく依存した鑑定士のあり方を再検討すべき時期ではないか。海外への展開や中古住宅の評価への関与等々を進め、限られたパイを奪い合うのではなく、業容の拡大に知恵とパワーを注がなければならない。

 試験制度を検討するのにあたっては、すでに資格を持って仕事をしている人たちが、受験者に伝えられる言葉を持っているかも試されている。