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大言小語 最後の寡黙な男

 衆議院解散の意向を安倍晋三首相が記者会見で伝えた11月18日、昼休みに1つの訃報が入り、瞬く間にそれは日本中を駆け巡った。高倉健さん、83歳の最期だった。

 ▼日本を代表する映画スターで、網走番外地などの任侠シリーズのほか、「幸福の黄色いハンカチ」「八甲田山」「鉄道員」など、ヒット作・名作は枚挙にいとまがない。中でも、任侠シリーズは不条理な辱めを受け耐え続けるも、最後は怒りを爆発させるというストーリーで多くの人の共感を得た。当時、高倉健さんの映画を見ると、映画館を出た人がみな肩をいからせているという笑い話のような本当の話があった。

 ▼小子は残念ながら、幸福の黄色いハンカチのような人情ものしか見ていない。任侠シリーズは、ドスや日本刀で相手を斬っていくのだが、時代劇と違って、背広などを着た敵を斬るシーンが生々しく、自らが斬られている感じが起きてしまい、子供の時分は苦手だった。それでも、寡黙な健さんに憧れ、友人から話しかけられても一日話さない遊びなどした。すぐにしゃべってしまったが。

 ▼夜には、健さんを振り返るニュースが流され、海外でも評価された実績などが紹介された。寡黙な昭和の男の死を悼むニュースの後には、ハイテンションに政治を語る男の映像が茶の間に流れていた。「沈黙は金、雄弁は銀」。そして、饒舌は何も残さない。