政策

社説 賃貸住宅の存在意義は 住宅双六の「上がり」にふさわしく

 賃貸住宅は何のために存在しているのだろうか。高度成長時代は持ち家を取得するまでの「仮住まい」であり、大家(土地所有者)にとっては節税手段だった。所有者に節税効果が生まれる事情は今も変わらないが、住み手にとっての賃貸住宅は、その社会的存在意義が大きく変化しようとしている。

低金利で薄れた役割

 若年層(20~30歳代)にとっての賃貸住宅が、いまだ「仮住まい」としての要素を残していることは否めないが、日本が低成長・超低金利時代に入ってからは社会人になると同時に新築分譲マンションを購入することも資金的には難しくなくなった。安めの中古マンションであればなおさらだろう。共稼ぎの新婚カップルともなれば住宅ローンを多めに借りることができるから、狭くて味気ない賃貸に甘んじる必要はさらさらない。

 このように借り手から見た賃貸住宅は、その存在価値が急速に薄れつつあるのに、貸し手にとっての意義(節税対策)があまり変わっていないところに、空き家増加問題の本質がある。つまり、これからの賃貸住宅は節税など受け身ではなく、キャッシュフローを増やす攻めの資産経営として取り組むことが肝要だ。しかし、そこに立ちはだかるのが人口構造である。

 おそらく、日本は既に3000万人を突破した高齢者(65歳以上)の方が、若者(20~39歳)の数を上回っていて、今後はその差がますます拡大する。60年には高齢者は約3500万人、それに対し若者は今の2分の1以下の約1500万人まで減少する。

 若年層だけを対象にしていたら、これからの賃貸住宅経営は長期的には成り立たない。どうすればいいのか。当然、高齢者をもターゲットにしていくべきである。高齢者向けというと、介護や食事サービスが付いた「サ高住」が思い浮かぶ。しかし、70代までなら健常な高齢者の方が圧倒的に多いのだから、そうした元気な高齢者向けの賃貸住宅こそ開発されるべきである。特に、元気でも一人暮らしの高齢者には配慮が必要だ。

高齢者見守り機能を

 高齢者単身世帯数は現在約560万だが、20年には631万となり、高齢者夫婦世帯の614万を上回る。

 超高齢社会の賃貸住宅は、脳梗塞など高齢者の突然の異変にも対応でき、孤独死などの不安がなく、安心して老後を楽しめる場所として供給されなければならない。これまでの集合住宅のように〝隣は何する人ぞ〟ではなく、皆が顔見知りとなり、互いに安否確認ができている賃貸住宅こそ、住宅双六の「上がり」を飾るにふさわしい「ついのすみか」と言えるのではないだろうか。