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大言小語 「あつもの」か「なます」か

 人生を歩むうえで指針となったり、礎となるのが「ことわざ」だ。ただ、参考になるはずが、反対の意味を持つものも多く、混乱する場合も多々ある。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と「君子危うきに近寄らず」などがその例だが、最近の政治を見て対のことわざが頭に浮かんだ。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」。

 ▼3.11から2年3カ月が過ぎ、株価に一喜一憂し、原発事故などなかったかのような幻想に浸る向きさえあるが、現実には、今も福島第一原発では原子炉建屋に地下水が流入し、たまり続けている。近くの井戸水からは高濃度の放射性物質が検出された。あの事故は全く収束していないのだ。

 ▼政権与党の実力者が、「福島第一原発の事故で直接亡くなった方はいない」と発言し、取り消したが、実はもっと重要なことを言っている。「原発は廃炉まで考えると膨大なお金がかかるが、稼働中のコストは比較的安い」。再稼働に向けての発言だが、つまりは廃炉に関しては次世代にツケを回すと言っているに過ぎない。こちらのほうが問題発言だ。

 ▼安倍総理は東欧や中東に原発輸出をトップセールスしているが、福島原発の後始末も見えない中、熱さを忘れているのではないか。国民の脳裏に焼きついているのは膾ではなく、水素爆発した建屋の姿のはずだが。