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大言小語 大人の居酒屋

 「大人の居酒屋」賞をあげたいような店が、東京・八丁堀にある。2回目に友人を誘って行ったとき、早くも顔を覚えていてくれて、ちょっとした優越感にひたる。テーブル席が埋まっていたのでカウンター席へ。最初に行ったとき、店はすいていた。普通、一人だとカウンターを勧められるが、「どちらでも」と言われた。こういうのが、うれしい。後から4人連れが来たら、カウンターに移るぐらいのマナーは心得ている客と見てくれたことになるからだ。

 ▼友人とカウンターに座ってしばらくすると、店の電話が鳴り、3人連れの予約が入った。カウンター席しかないが、我々が座っている両側に2人分ずつ空いていた。気をきかして、「1つ、ずれましょう」と申し出ると、店主は恐縮しながら、右側にあった2つの腰掛けの1つを片づけて「どうぞ、広く使ってください」と言った。正に「大人の粋(いき)」を感じた。

 ▼料理の味は申し分ない。酒の種類もいい。煮込みや、サラダを注文すると、何も言わないのに、それらを半分ずつ小鉢に分けて2人の前に置いてくれる。言葉を交わさない思いやりが奥床しい。こうした店主がいる店は、自然に客層も良くなるようだ。大きな声でわめき合う客はいない。

 ▼「量から質へ」がキーワードになって久しいが、単なる質ではなく、住まいの「豊かさ」を深める時である。業界には「大人の居間」賞があってもいい。