政策

社説 底入れしたオフィス市場 品質重視に需要がシフト

 12年の東京都心区のオフィスビル市場は、上半期に大規模な新築ビルの大量供給が相次いだ影響から需給バランスの一層の悪化が心配されていたが、大きな市況の落ち込みもないまま空室率はピークアウトし、徐々に改善に向かい始めた。

 震災後のオフィス市場では、コストダウンを目的とした事務所の統合・移転が引き続いていることに加えて、BCP対策を見据えた築浅、ハイスペックビルへの移転需要などが顕著になった。オフィス仲介会社のデータによると、東京23区にあるオフィスストックのうち築30年を超えるオフィスビルは全体の3割に上り、築40年以上に至ってはこの約半数を占めている。ここにきて、こうした老朽化した自社所有の本社ビルの売却や建て替えなどによる移転も活発化しているという。老朽化したビルの建て替えは、今後更に増加してくることが見込まれ、新たな借り換え需要として顕在化してくることが期待されている。

活発な大型移転

 同社がまとめた東京23区・12年1~9月期のオフィス契約状況(実績)によると、全体では成約件数、成約面積は前年同期比でやや増加にとどまったものの、賃貸床面積500坪以上の大型オフィスに絞ると成約件数は2.5倍、成約面積も2倍と大きく伸びた。同社では、これら大手企業を中心とするオフィスの大型移転は主に建物のグレードアップや好立地への転居を目的とした「グレードアップ移転」がその大半を占めていると分析しており、「前向きな」潜在需要を裏付けている。

 こうした新しい需要も加わって、一部ハイスペックのオフィスビルの募集賃料については早くも底打ち感がでてきた。オフィス仲介各社がまとめている募集賃料調査でも今年下期以降はほぼ下げ止まりの様相を呈している。「空室を抱えて竣工した新築ビルも賃料の値下げには至らず、空室率が改善してきたビルの中には賃料引き上げの事例も見られる」ほどだ。また08年の金融危機の際に一気に市場に広まり、半ば常態化していた長期間のフリーレントも縮小方向にあるとの声も聞かれる。

 オフィスビル市場は12年を境にして、市況底打ちという大きな転換期に差し掛かったのは明らかだ。しかしその一方で、主な移転の理由が、これまでのコストダウン最優先から、安全・安心、BCP、環境対応といったオフィスのグレードアップにシフトしていることは重要なポイントだ。賃料を下げさえすればオフィスが埋まっていた市場は先行き徐々に縮小し、品質やテナントサービスなど競争力で優勝劣敗が明確となる厳しい市場競争がこれまでにも増して進行していくことは明らかだ。