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大言小語 今こそ「江戸しぐさ」

 10数年前、「ジコチュー」という言葉が流行った。自己中心的が過ぎ、傍若無人、横暴、傲慢の域に達する人たちを意味していた。東京の地下鉄駅には「ジコチューな」振る舞いを戒め、注意を促すポスターも張られていた。当時は携帯電話も少なく、迷惑の原因はもっぱら、座り方やイヤホンからの音漏れ、リュックサックやショルダーバックを担いだまま乗るマナーの問題だった。

 ▼この頃、道具立てが充実したことで「ジコチューな人たち」が当時以上に増殖しているのではと思えてならない。時と共にマナーが悪化するのは一体どうしたものか。満員の通勤電車の中でも携帯電話やスマートフォン、ゲーム専用機とにらめっこ。夢中で指を動かす人、中にはタブレット型端末の画像をチャカつかせる迷惑な御仁もいて、まるで自己陶酔の世界である。それが半端な数ではない。「東京の人はどうかしてしまったのではないか」。飛行機で上京した地方在住者が思わず漏らした。異様な光景である。

 ▼人は誰でも「自己中心」であり、そうでないと生きていけない。だが、公共の場には気持ちよく過ごすためのルールやマナーがある。「他人様に迷惑をかけない」と教えられてもきたが、それは生きる知恵である。ジコチュー的な人が目に付いた今こそ、自らの振りを直すいい機会である。傘傾げなど、譲り合いで気持ちがいい「江戸しぐさ」を肝に命じたい。