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大言小語 住まいと絆

 震災以降、絆やコミュニティが注目されている。マンションでは大災害が発生したときの共助に役立つとか、戸建てだと親子の会話が弾むように工夫された間取りなどが話題になる。しかし、間取りが原因で親子の会話が少なくなったわけではない。災害時の共助は重要だが、普段の生活を助け合う必要はないのか。

 ▼日本人が絆を意識するようになったのは、実は震災前からである。いつからかははっきりしないが、日本人が一億総中流ではなくなった頃からだと思う。所得や雇用に対する不安、親の介護に対する不安、子供がいつまでも自立できないのではないかなど、突き詰めれば〝家族〟に内在する不安が現実化し始めた頃からだ。

 ▼シェアハウスがブームになっているのは、家族とは違う新たな絆を求める若い世代が増えているからではないか。離婚が増えているのは、夫婦や家族は固い絆で結ばれているという神話が崩壊しつつあるからではないか。結婚せず生涯独身を貫く人が増えているのは、家庭を持たなくても不自由ではない社会になったからではないか。

 ▼日本という社会が様々な不安で混濁の度を増している。どこへ向かい、どんな社会を実現しようとしているのか、誰も明快な答えが出せない。住まいを選ぶときの第一の基準は安心・安全。さて、その先にあるものは…。住まいは現代人が渇望する絆を本当に生み出すことができるのか。