特集 売買仲介の「不動産DX」 中小企業は、不動産DXを導入するべきか

できることから始めるデジタル化 住宅新報主催「不動産DXフェス2022」

写真左から針山氏、野口氏、橘氏、和田氏
■パネラー
・イタンジ 代表取締役社長執行役員CEO 野口真平氏
・弁護士ドットコム 取締役クラウドサイン事業本部長 橘大地氏
・GOGEN 代表取締役CEO 和田浩明氏
■モデレーター
・Housmart 代表取締役 針山昌幸氏

 今秋、住宅新報が主催した「不動産DXフェス2022」では、不動産テックサービスを提供する4社の代表者が登壇して、意見を交わした。不動産業界でのDXの現状、課題など語っていただいたセミナーでは、「オンライン化ですべてを完結しなくてもいい」「馴染みのあるLINEやGoogleの活用からDXが始まる」といった意外な声も上がった。DXに不安や躊躇(ちゅうちょ)する不動産会社にも大いに参考になったパネルディスカッションの模様を要約する。


中小企業こそDXを進めやすい

 不動産DXの現在の立ち位置について、6、7年前はまったく手ごたえがなく、今まで生き残り続けてきた会社は少ないとする野口氏も、「デジタルツールの成功体験が積み重なり、ここ2、3年でデジタルに対する信頼度が格段に上がった」と実感を語る。
 また、よく不動産業界はデジタル化が遅いなどと言われているが、多くの業界を見てきた橘氏は専門紙に「DX」の言葉が載る業界はほかになく、デジタルに関心が高いと感じているそうだ。電子決済がここ数年で一気に一般化したように、1、2年のスパンでデジタルの世界は激変する。大手不動産検索サイトでも「電子契約対応」などの選択肢が出てきて、検索されなくなる店舗が今後出てくるのでは、という話もあった。
 売買部門のDXサービスを提供する和田氏は、「大手デベにはミッションを背負った『DX部』があるが、他の会社ではまだデジタルを必要としないと感じる」と分析する。DXの導入については、どの業界でもけん引役はやはり大手。大手デベにはDX化を推進する部署があり、デジタルに明るく経営視点でものを考えられるキーマンがいるが、その下請けとなる中小には浸透していなく大きな広がりを見せるには至っていない。中小がDXを導入するのは「経営者の心意気」次第ではないのだろうか、と野口氏も話した。
 導入当初は「難しそう」と敬遠気味だった会社でも、ひとたびその便利さが実感でき成功体験が重なると、全くリアクションが変わって積極的になる。進んでいる会社とそうでない会社の濃淡も大きい。システムの複雑さなど大手ならではの難しさもあり、DX導入は経営者によっては中小企業の方がむしろ進めやすいのではないだろうか、との見解も出た。

つながるためのバランスは必要

 不動産営業では特に、「人と人とのつながり」が重視される傾向があるが、「デジタルツールを使うことでこのつながりが薄くなるのでは」との質問には、3者とも大きくうなずく。
 皆コロナ禍でリモートワークを経験し、効率的ではあるがウェットなコミュニケーションが少なくなった。ただ、そこは上手にバランスを取ればよく、日々の業務がリモートで効率的に進む分、週末は集まって遊ぶなど、バランスをとることでつながりやウェットなコミュニケーションから生まれるよさを失わずに済む。「無理にオンラインですべてを完結させようと考えなくてもいいのでは」と和田氏も話す。
 

LINEやGoogleから まずは始めてみる

 「小規模の会社がゼロからDXを始める場合、どこから手をつければよいか」の質問には、不動産用に開発されたアプリをわざわざ使うよりはLINEを活用するなど既存ツールを使うほうが簡単で、Google スプレッドシート(Excelと同じ表計算ソフトながら、オンラインで操作できるため複数アカウントで共有、同時編集などができる)の利用、チャットワークなどの社内用チャットツールの活用を勧めた。
 「チャットツールを使うと、社内コミュニケーションがデータ化され残せることの価値に気づく。データ化されることはデジタルの本質で、データとして残らない時の機会損失は大きい」と言うのは野口氏。
 また、「フェイスブックはもはや若者のツールではなく、今は皆自分が信じる人がおすすめする情報を信じるためインスタで検索をし、それもさらにスナップチャットやティックトックへと移行しつつある。デジタルへの柔軟性は業界の問題ではなく世代によって違いがある。デジタルを取り巻く環境は目まぐるしく変わっているので、相当意識をしてついていかないと」と橘氏は警鐘を鳴らす。
 更に、今後の不動産業界の行方としては、マイクロステイやエアビーなど2週間程度の滞在型ステイが若者のライフスタイルとして定着するだろうとし、「その時、受け皿を外資型のプラットフォームがやるのか、日本企業の努力が試される」と橘氏。
 最後の総括として、野口氏は、不動産業界はきわめて社会的な重要度の高い業界でありながら、若者に選ばれにくい側面があるものの、「DX化が推し進められることによって、不動産業界に若く、かつ優秀な人材がどんどん流入するようになってほしい」と希望を語った。