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新たな日常を暮らす住宅 感染対策・防災機能が標準搭載に

【住まいと暮らし特集】住宅意識の変化を捉えた提案を

〝新たな日常〟を組み込んだ新計画

 社会環境の変化や新たな日常を考慮した、新たな住生活基本計画が3月19日に閣議決定された。20年2月以降から続く新型コロナウイルス感染症の影響で生活は大きく変わり、また多発する自然災害によって住まいに対する防災の意識も高まっている。今回の計画は、21年度~30年度(5年ごとに見直し)の10年間において、少子高齢化や空き家問題といったこれまでの課題に加え、新しい日常や自然災害に対する住宅のあり方などを示した。

 住生活を取り巻く環境は、子育て世代の減少や高齢者世帯の増加、旧耐震基準や省エネルギー基準未達成の住宅ストックの増加に加え、管理不全の空き家も増加している。またコロナ禍が続き、感染対策に加えてテレワークや在宅勤務など働き方も大きく変化。更には、自然災害が頻発・激甚化していることも大きな課題となっていることから、①社会環境の変化、②居住者・コミュニティ、③住宅ストック・産業――の3つの視点による8つの目標を設定した(表1)。
 コロナによって大きく変わった社会環境を受け特記されたのは、「目標1」の「『新たな日常』やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展等に対応した新しい住まい方の実現」だ。
基本的な施策として、住宅内テレワークスペースなどを確保し、職住一体・近接、在宅学習の環境整備、宅配ボックスの設置など非接触型の環境整備を推進。空き家などの既存住宅を活用し、二地域居住や地方移住など地方や郊外、複数地域での居住を後押しする。
 また、新技術を活用して住宅の契約・取引プロセスのDX化や、住宅の設計から建築、維持管理に至る全段階におけるDXを推進する計画で、25年までにDX推進計画を策定・実行する大手事業者比率を100%にすることを目指すとしている。
 「目標2」に掲げている「頻発・激甚化する災害新ステージにおける安全な住宅・住宅地の形成と被災者の住まいの確保」では、ハザードマップの整備・周知等による災害リスク情報の空白地帯の解消や、豪雨災害など危険性の高いエリアでの住宅立地を抑制する。安全な立地への誘導や既存住宅の移転誘導なども行うと共に、住宅・住宅地のレジリエンス機能も向上させていくとしている。
 脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築も、気候変動問題への取り組みとして欠かせない。政府は「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、グリーン成長戦略を発表。住宅・建築物産業分野においても、ZEHの普及に加えて高性能建材・設備のコスト低減や普及拡大、窓ガラスといった高断熱性建材の導入、性能評価制度の拡充に取り組んでいくとしている。住生活基本計画では、ライフスタイルに合わせた柔軟な住み替えを可能とするため既存住宅流通の活性化を推進。購入者の安心感を高めるための情報開示の仕組みの改善や、長寿命化に向けて長期優良住宅の維持保全計画の実施、耐震性・省エネ性・バリアフリー性能などを向上させるリフォームや建て替えによる、良質な住宅ストックへの更新に取り組んでいく。

テレワークの定着で都心近郊に住み替えも

 緊急事態宣言による外出自粛要請は、テレワークの導入を後押しした。国土交通省が今年3月に発表した「令和2年度テレワーク人口実態調査」(調査期間・20年11月)によると、20年度のテレワーク実施率は22・5%(全就業者)で、前年度から7・1㌽上昇し、伸長率としては過去5年間で最高幅となった。コロナによる緊急事態宣言の影響を受け、企業のテレワーク導入が進んだことが分かる。
 一方、テレワークの実施は首都圏(34・1%)が高く、地方都市圏(16・2%)については低い。これは、通勤時間が30分未満の人が多く、また通勤交通手段が自動車・二輪車ということが一因と考えられるという。つまり、テレワークの導入が住まいを見直すきっかけになるのは、首都圏ワーカーが中心になることが想定される。
実際に20年4月の緊急事態宣言以降、不動産サイトの閲覧件数が急増したといい、特に関東圏では都心から100㌔圏内の物件閲覧数が上昇したという(SUUMO調べ)。また、軽井沢や熱海といった都心から1時間圏内の観光・リゾートエリアの物件問い合わせ数が増えるなどの動きもあったことから、今後テレワークが定着していけば都心近郊への住み替えや二地域居住の動きが活発になる可能性も見込まれる。

生活+運動拠点に

 緊急事態宣言に伴う外出自粛により、スポーツジムやウォーキングを控え、運動不足を実感することも多かったのではないだろうか。
 明治安田生命保険相互が20年9月に発表した「健康」に関するアンケート調査によると、ステイホーム・コロナ禍を機に「より健康意識が高まった」との回答は45・1%となり、具体的には「食事・栄養に気を配るようになった」が50・9%、「運動を心がけるようになった」は35・3%、「ストレスをためないように心がけるようになった」は22・8%だった。また、具体的な生活習慣や身体の変化については、「運動不足・食生活の乱れによる体重の増加」が21・2%、「ストレスの増加」が24・1%となり、2割以上が身体・精神的な影響を受けたとしている。在宅時間の長期化や外出自粛を受け、健康増進に向けて生活習慣の改善に取り組む動きが増えると共に、やはり身体・精神的に影響が及んでいることが分かる 。
 コロナ前と比べた健康状態については48・1%が「健康になった」と回答し、このうち約4割が日常的に「運動・スポーツを行っている」としている。具体的なスポーツとしては、「ウォーキング」が57・0%と最も多く、「体操(ヨガ・エアロビクスなど含む)」(22・7%)、「ランニング(ジョギング)」(17・1%)と続き、密にならずに1人で手軽にできたり、自宅で気軽にできたりする「巣ごもり」運動・スポーツに人気が集まった。
 現在の運動やスポーツの実施状況については全体の36・5%が日常的に行っており、前回調査時(33・2%)と比べて3・3㌽上昇したが、このうち33・8%は「現在中断中」となっている。継続できている運動・スポーツは、「ウォーキング」(56・0%)や「体操」(22・4%)、「ランニング」(17・6%)で、中断している運動・スポーツは「ゴルフ」(10・3%)や「水泳」(7・3%)など、やはりスポーツジムや複数人で行うものについては、施設の営業休止措置や感染予防の観点から控える傾向にあった。更に、テレワークや在宅勤務による運動不足が及ぼす健康二次被害、高齢者では生活習慣病などの発症や、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)に代表されるように、体力・生活機能の低下(骨や筋肉等運動器の衰え、認知症など)をきたすリスクの高まりなどが指摘されている。

健康増進の観点も

 これからの「Withコロナ」を意識した日常生活を考えると、「自宅内で運動スペースを確保したい」というニーズが増える可能性がある。自粛期間中は運動系ゲーム・動画の人気が高まったというように、本格的なトレーニングスペースというよりも、リビングや玄関・廊下などを利活用したり、ワークスペースとの兼用といったことが想定されそうだ。
 例えば、テレワークでニーズが高まったワークスペースでは、リモート会議による音漏れや生活音を遮断するために防音性が求められることが多い。床材に防振対策を行えば、軽度の飛び跳ね動作が伴う運動スペースとしても利用することができるだろう。玄関や廊下も同様だ。
 高齢者世帯の場合、バリアフリーや高断熱性を重視しがちだが、長寿化が進みアクティブシニア層も増えている。これまでの「健康住宅」は住宅設備や建材などハード面の整備による措置が中心だったが、「Withコロナ」の新たな生活では、それに加えてより積極的な健康維持・増進をサポートすることが求められるのではないだろうか。外出自粛期間中、積水ハウスでは、アシックスと共同研究開発した運動プログラム「おうちでフィットネス」を無料公開した。「取り組みやすさ」に配慮し、思い立ったときにいつでも、人目を気にせずマイペースで運動ができるプログラムで、公開されたプログラムは1回5分程度・限られたスペースで年齢を問わず取り組めるため、快適な暮らしを支える運動習慣を身につけられるとしている。

「在宅避難」の拠点として

 コロナに加えて、防災意識も高まっている。地震だけでなく、台風や豪雨による水害や土砂崩れも増え、その被害規模は年々拡大傾向にある。20年7月に熊本県を中心に九州地方で起きた「令和2年豪雨」では、コロナ禍での避難生活の難しさが知られることとなり、「在宅避難」という選択肢も重要であることが指摘された。
 特に、東京など大都市圏では高層マンションが増えたこともあり、人口数が避難所での受け入れ人数を超えている地域があったり、耐震性や風水害に対応しているマンションのほうが、防災機能が高い可能性もある。東京都が発行した『東京防災』でも、「自宅で居住の継続ができる状況であれば、在宅避難をしましょう。(中略)事前に住宅の耐震化を行い、食料や水など必要な物を備え、可能なかぎり在宅避難できる準備を整えておくことが大切」とし、在宅避難の準備として、①ライフライン(ガス・電気・水道)の代替手段、②食料・日用品の備蓄、③下水道の使用確認――の3項目を掲げている。
 在宅避難は、情報や生活物資の調達を自分でしなければならないが、生活環境を変えずに避難生活を送ることができるため体調を崩しにくく、高齢者や介護者がいる世帯であれば安心。プライバシーが確保できる上、家族など少人数で生活することから感染リスクが低いことがメリットだ。居住地域のハザードマップを確認し、災害発生時に避難が必要な立地かどうかを把握しておくことが大切になる。浸水や土砂災害などが生じない地域であれば、「在宅避難」を選択肢に入れておきたい。

レジリエンス機能を強化

 そのためにも、自宅の耐震化やライフラインが断絶した時の備えが必要になる。住宅メーカー各社は、太陽光発電システムや蓄電池などを組み合わせ、ZEHなどを活用した災害に強い住宅の提案を行っている。
 例えば旭化成ホームズは、構造躯体に加え太陽光発電・蓄電池など自立エネルギー設備の普及、建物損傷の早期復旧の実現を目指したトータルサポート体制を整備し、特に戸建て住宅では自助機能を重視している。パナソニックホームズでは、制震技術「座屈拘束技術」を搭載し、3日分の電気・水を確保できる太陽光発電・蓄電システムと貯水タンクを備えた、「防災持続力を備える家」を全国展開している。IoT技術による災害予測と自動的な予防対応を行う総合的なサポート体制によって、災害時でも住み続けることができる。
 EV(電気自動車)と太陽光発電システムを系統連系させる「VtoHeim」を展開するセキスイハイムでは、蓄電池も接続させる「スマートハイムTB」シリーズを提案しているが、対応車種の拡充に加え、蓄電池の設置場所として2階バルコニーを追加したり、「飲料水貯留システム」により断水時にも飲料水を確保できるようにするなど、順次ライフラインの確保・強化を図っている。生活に必要なレジリエンス機能を強化した減災パッケージにより、「在宅避難」の実現を目指している。
 また積水ハウスでは、「地震・防災住宅オンラインセミナー」を開催し、住民の意識付けに取り組む。コロナ禍による外出自粛などの影響で、食料品や日用品の備蓄を余儀なくされたことを受け、防災に対する意識も高まっている。
 日常的に使う物を活用しながらの備蓄方法「ローリングストック」についても、かなり認知が広がった。頻発する自然災害に今回のコロナによって、住まう人の災害に対する意識が大きく変わろうとしている。レジリエンス機能がオプションではなく標準性能として定着させるためにも、この機会を逃さずに、丁寧な説明と情報提供を「継続」して行っていくことが重要になってくるだろう。