社説「住宅新報の提言」

住宅産業の可能性広がるか

『居住福祉』からの視点
「住宅産業から『居住福祉産業』へ~安心できる住まいをどうつくる」をテーマにした座談会を本紙4月6日号から3回にわたって掲載した。ここ数年来、住宅産業は混迷。その出口を模索しているが、その打開策の一つとして、居住福祉の視点から住宅産業の可能性を探った。
 日本居住福祉学会側が「本来あるべき居住・住居の本質・原点を探り、政策的にも産業的にも住まいの思想を確立することが急務ではないか」と連携を呼びかけたのが発端で。居住福祉学会設立10周年フォーラムの中心テーマにもなった。
 座談会では、現在の住宅産業・住宅政策、さらに福祉・社会保障政策が抱える様々な問題を浮き彫りにしたうえで、これからの住宅産業は居住福祉の視点でとらえる必要があるという1つの方向性が示された。「人間の暮らしを中心に、社会貢献する、地域に貢献する住宅産業であるべき」というものだ。
 出席者は居住福祉学会側が早川和男会長(神戸大名誉教授)と福祉ジャーナリスト・村田幸子氏、住宅産業側はコンクリート製造業で高齢者住宅も展開する山一興産社長・柳内光子氏と中堅ディベロッパーのリブラン会長・鈴木静雄氏。

住宅を遠因とする問題
 住宅産業は景気の波にさらされて幾度となく、同じ浮沈を繰り返してきた危機感がある。その一方で、少子高齢化や格差社会が進むことに十分対応できていない社会福祉政策の実態がある。高齢者施設での火災、家族や地域コミュニティの崩壊に伴う悲惨な事件も頻発。その遠因は「住宅の貧困」にあるとの指摘もある。
 この座談会で、早川氏は「あらゆる貧困の根底には住居の貧困がある」と近著で書いたことを説明した。「欧州型福祉政策は『住居に始まり住居に終わる』をスローガンに、住宅の貧困対策を第一にしている」ことを指摘。我が国でも「民間のエネルギーが居住保障に向けられるような制度と、社会的住宅産業の育成が必要」と提案する。また、「住宅産業は地場産業で、地域の環境や人々の暮らしを守りながら地域活性化の役割も担うこと」「高齢者に住宅を紹介する宅建業者の努力が居住福祉産業の一角を担っていること」「家を建てるのは住宅産業であり、政府に頼るのではなく、まず現場から取り組むことが重要である」ことなどを強調した。

高齢者住宅などは既に
 「居住福祉産業」と呼ぶと堅苦しいが、地域社会などとの関係を考えると住宅産業に隣接する身近な産業でもある。社会福祉的側面が強いが、現実には、すでに多くの住宅産業の企業がこの分野に進出している。
 高齢者住宅では、福祉住宅分野の特別養護老人ホーム、介護老人保健施設から、健常高齢者を対象にした高齢者専用賃貸住宅まで。独自展開だけでなく、医療法人や社会福祉法人などとの連携も多い。加えて、格差社会の深化で発生する弱者や貧困者に対する居住対策も重要さが増してくる。それらに対応するストック活用、情報整備といった新たな需要も生まれてくる。
 このように居住福祉の発想で住宅産業を見ると、事業領域だけでなく、ハード中心からソフト重視への転換や、様々な分野の法人とのコラボレーションの可能性も広がってくる。住宅産業、市場を活性化させる意味でも、「居住福祉からの視点」は欠かせないのではないか。