社説「住宅新報の提言」

11年度税制改正 同居条件に贈与を非課税に

 来年度の税制改正に向けた議論が大詰めを迎えている。注目されるのは、高齢者から孫への贈与である。
 政府税制調査会の案では、相続時精算課税の受贈者に、現在は子に限られているのを、孫も含めるようにしてはどうかというものだ。背景には、被相続人の高齢化があげられる。平成20年における被相続人の死亡時の年齢は、80歳以上が61%に達している。この結果、子の年齢は50歳以上が想定される。
 これでは資産を相続しても消費に回ることは少なく、潜在的に消費意欲の強い若年世代に資産を移転させるほうが、その有効活用を通じて経済が活性化するのではないかというものだ。

孫への贈与だけでは

 この案には、大いに賛成である。ただし孫への資産移転の道筋を作っただけで期待通りになると予測するのは甘い。高齢者には、おおよそ欲しい物はない。欲しいのは、将来に対する不安をなくし、安心と安全だ。それに資産を渡す側にも何らかのインセンティブが必要なのだ。
 もっといえば被相続人が高齢化によって、成年被後見人になった場合は、贈与という行為はできないのが、今の制度である。だから道筋をつけただけでは、子や孫への資産移転は簡単ではない。
 ここで提案である。子や孫が親と同居することを条件にした住まいの新築・購入・リフォームの費用を、子や孫に贈与した場合は大幅に課税を緩和する、場合によっては非課税にしてはどうか。「みんなで住みやすい家にするためのお金を出すから、私の面倒も見てね」ということである。

介護保険も救済

 ポイントは、この費用が高齢者から若年層への贈与である点である。よりよい住環境を確保しながら、自らの生活サポートをしてもらうということだ。
 国土交通省によると、高齢者が施設等に入居するのに比べ在宅介護にすると、介護費用は279万円から86万円へと約7割も減少するという。だからこそ現在の住まいをバリアフリー化することを推進しているわけだ。
 相続における小規模宅地の評価減の適用でも、相続人の同居が要件になっているではないか。「同居」は税体系で認知され、ビルトインされている。
 親は親、子供は子供として、それぞれ自立・自活すればいいという考え方もあろう。しかし現下にあっては合成の誤謬になっていることに気づかなければいけない。
 同居は、住居費用の支出による経済活性化という効果だけではないのである。わが国の介護保険制度を救済する最後の切り札なのだ。国も在宅介護を推し進める方針にある。介護保険によって、世界にも前例を見ない高齢社会をサポートしていくのが極めて困難である以上、子や孫が親とともに生活をして介護するのは、高齢化先進国・日本の正しい姿ではないか。