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住まいに新たな選択肢 建設用3Dプリンターの可能性 

 3Dプリンターは家庭用のほか、自動車や飛行機の製造でも使われ始めた。「建設用」の3Dプリンターは、海外が先行している。米国で戸建て住宅が、中国では5階建てマンションが建ち、橋を架けた。日本でも、ゼネコンやコンクリート系企業などで研究開発が進むが、ここにきて、スタートアップ企業の取り組みが加速している。そこには、最先端のテクノロジーを活用する未来の形を描き、また、不動産・建設に関わる日本の抱えている課題を改めて考えさせられる姿がある。(坂元浩二)

 

 住まいをプリンターでつくる時代に突入した。とは言っても、建設用3Dプリンターは、「産業用ロボット」を想像したほうが分かりやすい。 設計データに基づき、パソコンなどで制御して、歯磨き粉のチューブから押し出すイメージで、ロボットアームの先端ノズルから吐き出すモルタル素材の2次元の層を、1枚ずつ積層して、3次元の構造物を形づくる。3Dプリンターなどの「ハード」やモルタルなどの「マテリアル」、設計開発技術の「ソフト」が〝三位一体〟とならねば実現しない。素材が軟らかすぎれば固着前に下層が押しつぶされ、硬ければ層の間が離れてコールドジョイントになる。絶妙な技術が求められる。

 セレンディクス(兵庫県西宮市)は、建設用3Dプリンターを用いて24時間以内の家づくりを目標に、協力企業の百年住宅(静岡市駿河区)の小牧工場(愛知県小牧市)内で3月に、「世界最先端の家Sphere(スフィア)」を23時間12分で完成させた。

 建築基準法適用外の9.9m2の規模で躯体重量は20トン。グランピングや、災害復興住宅、別荘用で協力企業に10棟を先行販売し、8月に一般販売する。工期の掛かる配筋が不要で建築コストを抑え、物理的に〝強い〟形を求めて、壁面二重構造のコンクリート単一素材で、デザイン性にも優れる〝球体〟を導いた。欧州基準の断熱性能や日本基準の耐震性能も満たすという。

 更に、慶應義塾大学KGRI・環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター(代表・環境情報学部教授の田中浩也氏)が研究・設計・監修する一般向け住宅のプロトタイプ「フジツボモデル」の共同プロジェクトを4月6日に発表した。60代夫婦2人の住まいを想定しており、建築基準法に準拠する平屋建て49m2(高さ4メートル)の規模で今秋に披露する。

週末の住居として

 「進歩とは力の結集から」(セレンディクスCOOの飯田國大氏)と、現在、国内外90社で構成するコンソーシアムで研究開発を重ねる。今回の3Dプリンター住宅は、ぬくもりと安らぎを与えるリラクゼーション空間「週末の住居」がコンセプト。IoT機器でスマートハウス化し、液晶スクリーンで室内に自然の風景や宇宙空間などを投影して〝非日常〟を演出する。

中小企業が使いやすく

 Polyuse(ポリウス、東京都港区)は、人とテクノロジーの〝共存施工〟をコンセプトに、建設用3Dプリンター自体の独自開発を推進している。実際に、群馬県渋川市で1月に建築確認申請の許可を得て、建物を完成させた。暮らしの空間をイメージできる規模感の平屋建て17m2。従来のコンクリート壁の基準強度以上を確認した。今後は災害時の迅速な住宅供給などができるよう、耐震性など更にデータを検証し、精緻に研究や実証を重ねていく。

 建設用3Dプリンターは海外で数千万円以上が相場。同社は1000万円程度の価格帯を想定し、22年中に協力企業に先行販売する。「すそ野の広い中小建設業者が建設現場で〝使える〟技術の開発に主眼を置いている」(ポリウス代表取締役の大岡航氏)。

 先行する海外の仕様ではなく、協力施工会社や国土交通省との定期的な協議などを通じ、国内向けに〝最適化〟した技術・仕組みを開発する。

土木インフラにも

 ポリウスは、土木分野にも力を入れる。大岡代表らの使命感が研究を後押しする。「祖母の住まいの近くの橋が老朽化で通行止めとなり、不便を強いられている。日本の橋やトンネルなどの膨大な土木インフラは、更新時期を迎えながらも維持補修が進まない。これでは、次世代に安心・安全な日本を残せない」。

 解決の端緒で、「集水桝」の自動施工を20年8月に吉村建設工業(京都市中京区)、21年6月に前田建設工業と共同実験。同年12月に国土交通省広島国道事務所、広島大学、加藤組(広島県三次市)と産官学連携で排水施設の施工も実証。1月に国土交通省土佐国道事務所の発注、入交建設(高知県高知市)の受注工事で3Dプリンターによる集水桝を実際の国道に設置した。

次の世代のために

 セレンディクスは、3Dプリンター住宅で「100m2.300万円」の実現を目指して、住まいづくりのハードルを下げる。立地は土地を安く確保できる都市部から車で90分圏内、将来普及する〝空飛ぶクルマ〟では15分圏内の距離を想定する。「住宅ローンを30年も払い続ける暮らしは幸せなのか。1回しかない人生で自由を縛られず、もっと家族と過ごす時間が大切だと思う」(セレンディクスの飯田氏)。計画には、シニア層からの問い合わせが多い。賃貸では入居を拒否されがちで、持ち家も子が巣立てば広すぎ、リフォームもお金が掛かる。手頃な価格帯で購入して〝終の棲家〟に、との声が届く。

 ポリウスは、22年内の新たな共同プロジェクトの実現に向け、サンフロンティア不動産(東京都千代田区)と検討協議を始めた。「熟練でない若者でも使いこなせる建設用3Dプリンターの開発には、従前の現場技術の知見やノウハウが欠かせない。スマートな施工方法の確立は業界全体のイメージアップにもなる」(ポリウスの大岡氏)。建設現場は技術者の高齢化など、深刻な人手不足。品質と安全を確保し、自動施工で労働環境を改善・改革して生産性向上や施工効率を高める国土交通省主導の〝アイ・コンストラクション〟の推進に貢献する。

未来は、すぐそこに

 建設用3Dプリンターは曲面など自由なデザイン性や型枠が要らず短工期、自動化、コスト縮減を実現する。両社の取り組みには、ディベロッパーやハウスメーカー、工務店が参画している。住まいづくりなどの新たな選択肢として確実に広がりそうで、「5年以内に、建設用3Dプリンターによる施工現場が一般化するのではないか」(ポリウスの大岡氏)と話している。