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社説 免震・制振データ改ざん問題 交換以外の物件には〝安全宣言〟を

 「より安全、より快適に」――。そう願った建物の居住者、利用者の信頼を裏切った罪は重い。油圧機器製造大手のKYBと川金ホールディングスが行った免震・制振工事の検査データ改ざん問題だ。国土交通省は、認定取得事業者に内部調査を緊急に行うよう指示した結果、この2社グループ以外には不正の報告はなかった。ただ、指定性能評価機関による調査の報告は期限が年内いっぱいとなっており、まだ時間がかかる。

 こうした不正はなぜ行われたのか。会社の不祥事でよくありがちだが、納期に間に合わせるのが理由だったという。基準から外れた製品は当然再検査するものだが、それによる時間的ロスを防ぐため、検査データのほうを書き換える。そこにはメーカーとしてのプライドは感じられない。担当者だけでなく、経営者の責任も当然問われることになる。

 不適合・不明製品を使用している建物は、医療・福祉施設、行政庁舎、教育施設、物流施設など多岐にわたるが、最も多いのが住宅となっている。不適合などの製品については、交換などを行うと2年かかるという。優先順位をつけながら実施していく方向だが、いずれも重要な施設であり、中には地域の防災拠点となっているものもある。優先順位をつけるのは至難の業ではないか。

 ただ、そうした建物の所有者や利用者などに理解してほしいのは、データ不正自体は決して許されない行為だが、これを使用した建物が即危険な建物となるのではないということだ。免震、制振装置は文字通り、地震などの揺れを粘りの強いオイルを入れているダンパーなどで抑えることで、建物に伝わりにくくするものだ。逆にいうと、あくまで設備であり、耐震性とは別の基準だ。したがって、不適合製品が使われている建物でも、新耐震基準に該当するものであれば、震度6強から7程度の揺れでも倒壊しない。また、不適合製品の中から、認定基準から特に大きく隔たりがあったものを使用している建物を選んで検査機関が検証したところ、同程度の地震にも十分耐えられるという結果が出た。もちろん、まだ調査中のものがある段階で軽々しいことは言えないが、製品を取り換えなければ利用できない、住むことができないというケースは少なそうだ。ここは、所有者、利用者ともいたずらに不安にならず、冷静に推移を見守ることが必要だろう。

 現在、KYBなどは新規出荷を停止している。建設中のタワーマンションなどの竣工が延びることも考えられるし、新規着工にも影響が出るだろう。不動産業界に与える影響はかなり大きい。国交省は、立ち上げた有識者会議で検証や再発防止策などの検討を進め、その結果、大きな影響がなければ〝安全宣言〟を出すべきだ。居住者、利用者の不安を一掃するのは包み隠さない国の言葉だけだからだ。