不動産取引において顧客との重要な事柄のやり取りは文面を送り、その上で口頭にて補足する、顧客が考える重要な事柄は文面で受け付けて文面+補足で回答するのがよりベターな方法だろう。
連絡方法として文面(書面やメール)でやり取りをするのは初歩であり基本だろう。後で顧客との間で「それは伝えました」、「いや聞いていません」とのトラブルになるのを避けるためだ。もしトラブルとなっても文面が残っていれば「書面でご案内済みです」、と言えるからだ。証拠があれば強い。
しかし、文面で内容を正確に伝えることは難しい。専門用語が多くなると理解しづらいし、平易な言葉にすると何が言いたいのかが分かりにくくなる。正確を期すなら長文になるが、それだと今度は要点が分かりづらくなる。
また顧客、文面の受け取り手の問題もある。(1)自分に都合の良いように読む、(2)逆に悪いように読む、(3)まったく読まない、(4)理解できなかったけど何も言わない、等顧客にもいろいろな方がいる。
筆者もよく失敗している。「設備の故障はお客(買主)様で修理等をお願いします」と伝えたところ「分かりました」と返ってきたので「買主負担での修理をOKもらえた」と思っていたら、「えっ、修理はするけど売主で費用を出してくれるんでしょ」と都合の良いように解釈されていたことがある。ただ、労力と費用の負担は買主、ときちっと文面で書いて送り、口頭で説明しておけば良かっただけとも言えるのでこちらのミスだ。そのため顧客には文面で伝えた上で、電話をして口頭で補足説明をした方が内容を正確に伝えることができるだろう。
一方でこちらと顧客で重要と考えている事柄が違う場合がある。こちらは重要でない話と思ったが、実は顧客の方では売買に際して重要と考えている話だ。例えばマンションの売買において車の話が一切出てこなかったのに、不意に「車を置けますか」と聞かれて3ナンバーの車をイメージしながら大した話ではないと思い「置けますよ」と軽く伝えたら、意外に買主にとって重要な話で、売買契約の場で大型車のため重量制限で機械式駐車場に置けないことが分かり、「売買契約時に入庫できないと言われても困る」となるケースなどだ。
顧客は「この話は売買を決めるのに重要なことです」とは言ってくれない。そのためこちらから「お客様で重要とお考えのことは正確に回答をしたいので文面でお伝えください」と最初に伝えておくと良いのかもしれない。筆者も会ったその日に伝えているので口頭での回答で何かあっても「重要な事柄は文面というお約束ですよね」と言えるので、売買での重要な事柄で全責任を被ることは少ない。
顧客とのコミュニケーションは何らかのルールがあった方がトラブルにはなりにくいだろう。
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【プロフィール】
はたなか・おさむ 不動産コンサルタント/武蔵野不動産相談室(株)代表取締役。2008年より相続や債務に絡んだ不動産コンサルタントとして活動している。全宅連のキャリアパーソン講座、神奈川宅建ビジネススクール、宅建登録実務講習の講師などを務めた。著書には約8万部のロングセラーとなった『不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)、『家を売る人買う人の手続きが分かる本』(同)、『不動産業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など7冊。テキストは『全宅連キャリアパーソン講座テキスト』(建築資料研究社)など。
              
              
              
              
              


