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酒場遺産 ▶41 大阪天王寺 明治屋 再生された老舗酒場

 当連載では首都圏の酒場を紹介してきたが、たまに全国津々浦々とはいかぬまでも地方の酒場も紹介したいと思う。首都圏はおろか全国となれば、無数の素晴らしい酒場があるに違いないから、筆者と縁のあった酒場となることをご容赦いただきたい。まずは大阪天王寺「明治屋」。大阪に詳しい友人N氏が「ぜひとも訪れてほしい」とのことだったが、まさに酒場遺産に相応しい老舗酒場だった。「明治屋」はその名の通り、明治末期に大阪・梅田で酒小売業として創業、その後1938年(昭和13)に阿倍野で酒場を開業し73年間続いた。2011年に再開発により大型商業施設内に現在の店を構えることとなった。こうした場合、多くはかつてのオーラを失いがちだが、内装や酒器などを引き継ぎ、見事に風格ある酒場となった。酒場再生の見本だ。

 モールに面する入口には「酒」「明治屋」と染め抜く文字の暖簾、古い看板が目立つ。引き戸を開けると、分厚く摩耗した木のカウンターが美しいコの字型カウンターとテーブル席がある。銅製酒燗器の銅庫や昔ながらの樽など置かれ、漆喰壁には酒の黒い札が下がり、黒板にはその日の料理が書かれる。壁の入隅には能勢妙見山の神棚があり「常富大菩薩」などの提灯が下がる。前の店から引き継いだものだろう。

 酒は、愛媛県川亀樽酒(燗)はじめ、八海山・九頭竜逸品・雨後の月・鶴齢・山形正宗・秋鹿・黒松剣菱・神亀などが美しいグラス徳利で供される。一合420-600円と安い。麦酒、焼酎、チューハイなどもそろえる。この日(3月初旬)の小皿料理は、寒ブリ刺身、きずし、どて焼き、真鰯煮つけ、きびなご唐揚げ、海老団子、いわし梅肉揚げ、豚角煮、なめたけおろし、ぬか漬け、湯豆腐、おでん、春野菜天など、どれもそそられる。250~500円と手頃だ(おでんは1品150円)。何もかもが素晴らしい。            (似内志朗)