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酒場遺産 ▶33 上野 北畔 みちのく料理と青森の地酒

 「北畔(ほくはん)」は上野アメ横近く、昭和通りから一本入った通りの、酒場遺産の名に相応しいみちのく酒場だ。 NHK「きょうの料理」を35年担当したという料理研究家の阿部なをさんが、故郷であるみちのく(青森)料理の店をはじめたのは、高度成長期1959年(昭和34年)と言うから、創業64年だ。上野は「北の玄関口」と呼ばれるが、当時は東北の味を味わうことのできる店はなかったという。なおさんが亡くなってからは、オーナーである長男の陶芸家 阿部和唐氏の妻かよさんが店を取り仕切っている。入って右側のカウンターは6~7席、奥には畳の座敷があり宴席もできるらしい。座敷には棟方志功による衝立、カウンターの上には和唐氏の陶芸作品が並べられ独特の雰囲気を醸し出している。因みに和唐氏の父である阿部合成氏は明治生まれ、1930~60年代に活躍した洋画家である。

 酒も料理も素晴らしい。日本酒のメインは青森県上北郡の酒「桃川純米」、四合瓶で3400円。生貯蔵ねぶた300ミリl1300円、純米八甲田二合1800円、田酒純米二合2600円と、青森の地酒ばかりだ。どれも一合から出してくれる。もちろん料理も「みちのく料理」で、酒の盆みちのく小鉢6種1750円、お造り盛り合わせ(本鮪・鯛・かんぱち)2750円も評判という。その他。ハタハタ一夜干し、鮎風干し、ゆかり揚げ、鯛兜焼き、目光唐揚げ、広田湾の真牡蠣、いぶりがっこ、白滝のたらこ和えなど。また四季ごとに、春は行者にんにく・焼き筍、夏は鮎風干し・海鞘、秋は茸煮びたし・銀杏、冬は津軽雪鍋など、酒飲みの気持ちをそそるものばかりだ。暖簾をくぐり、カウンターで桃川の熱燗を傾けると、骨太で縄文的なみちのくの世界にタイムスリップしたような感覚に囚われた。         (似内志朗)