総合

彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇114 持家着工が続落 〝建てる文化〟の衰退 見過ごしていいのか

 今や住宅は自ら建てるものではなくディベロッパーやハウスメーカーが分譲するマンションや戸建てが主流になろうとしている。

 23年の新設住宅着工戸数(約82万戸)のうち分譲が約24万6千戸、持ち家が約22万4千戸とそれほどの差ではないが、前年比を見ると分譲3.6%減に対し、持ち家は11.4%も減少している。しかも分譲は3年ぶりの減少だが、持ち家は2年連続の2桁減で、1960年以来約64年ぶりの低水準を記録した。単月では昨年12月で25カ月の連続減となる。

 これは明らかに我が国の〝マイホーム市場〟の中心が自ら施主となる持ち家ではなく、企業がプランした分譲住宅に移行し始めている兆候と見ることができる。

 「だからどうした」と言われそうだが、これは意外に大きな問題ではないか。日々の暮らしの基盤となる住まいのコンセプトを他者に委ねているのも同然だからである。では、それのどこが問題か。

 そもそも住まいのように大きな空間、もしくは装置を素人であるユーザーが自らプランニングすることなど無謀とさえ言える。それよりも「こんな住まいで、こういう暮らしを楽しんでみませんか」というプロの提案の中から自分に最もフィットするものを選ぶほうがはるかに合理的で安全だとも言える。

 確かにそうなのだのが、持ち家といえども素人の施主がすべてをプランニングするわけではなく、ハウスメーカー側の担当者(営業社員や建築士)と綿密な協議を重ねて造り上げていく。その意味では、プロが提案するコンセプトの中から気に入った物件を選択する分譲住宅と似ている点もなくはない。ただ、そこで本質的に違うのはプラン作りに最初から、そして仕上げの段階まで関わっているかどうかである。

 自分の住まいを持つ究極の楽しみがどこにあるかといえば、家造りの過程を試行錯誤を重ね、迷いながら自分の理想に近づけていくことにある。

 その楽しさを最大限味わえるのが持ち家だが、近年は建築資材の高騰や職人不足による人件費高騰で一般庶民には手が届かなくなっている。前号(2月6日号11面)で述べたように中古住宅を買って自分の好みに合うリノベーションをする人たちが増えてきている背景にはこうした事情もあるのだと思う。

自ら創る楽しみ

 リブラン(東京都板橋区、渡邊裕介社長)の一事業部門である「てまひま不動産」はそうした中古住宅の購入とリノベーションを提案している専門店だ。物件探しから、資金計画、リノベーションの設計・施工、アフターサービスまでを「ワンストップ」で行っている。同社宣伝部部長の菅原浩一氏は昨年の筆者の取材に対し「若い女性の夢である大きなクローゼット、アイランドキッチン、広いリビングルームなどが小ぶりの中古マンションでも実現できるのがフルリノベーションの魅力」と語っていた(23年2月28日号本コラム)。

 「てまひま不動産」は同社事業の中でも24時間演奏可能な防音賃貸マンション「ミュージション」と共に2本柱という位置づけであり、今後の有望事業として捉えられている。つまり、「住まいは本来、手間ひまを掛けてこそのもの」という思想が同社にはある。

 持ち家が長期的に減少している要因の一つとして「忙しい共稼ぎ夫婦が増えているので、担当者との打ち合わせなど多くの時間がかかる持ち家が敬遠されている」ことが指摘されている。

 しかし、住まいはその忙しい生活のまさに基盤となるものだ。基盤であるということはその生き方、働き方、人生に対する価値観、更には人としての感性を育む場所でもあるということを意味している。つまり、人生において最も大切な居場所造りには時間を節約するどころか、ほかのことは犠牲にしても最も多くの時間を掛けるべきではないか。しかもそこにはこの世の中にある楽しいことの中でも最高に楽しい時間が用意されているのだから。