総合

社説 24年住宅・不動産業界への期待 納得を得られる「価値」示せ

 住宅・不動産業界でも新たな1年の事業活動が始まった。「辰年」らしい業界の躍進へ向けて、改めて、「価値」を生み出し、伝えることの重要性を見つめ直してもらいたい。

 足元では、3年以上にわたるコロナ禍の影響は消えておらず、政治・経済面でも国内外で様々な動きが顕在化しており、社会変化の大きな時代を迎えている。国内で大きな影響を及ぼすのは、今号の本紙特集テーマでもあるインフレだろう。本紙の「23年重大ニュース」でも、価格上昇に関連した項目は多かった。更に24年には日本銀行が、賃上げ率の動向を見て、4月頃にマイナス金利の解除など〝緩和の出口〟へ向かうとの見立ても多い。金利だけでなく、用地価格から建設費、販促費、光熱費まで、あらゆるモノ・コトが高騰するという事業環境の変化の中、十年一日のように停滞した考え方のまま生き残れる企業など、現実的にまず存在しない。

 とはいえ、本紙経営者アンケートでは、24年の景況感はおおむね前年同様の推移と見る向きが大勢であり、差し当たり短期的に市況が激変するという段階ではなさそうだ。23年末の与党税制改正大綱では業界の税制改正要望が基本的に受け入れられ、胸をなでおろした関係者も多いだろう。

 しかし当然、税制措置や補助金だけで上昇する事業コストを吸収しきれるはずもなく、「行政の支援が続けば事業も安泰」とはいかない。今後は一層、提供価格の上昇に対して顧客の納得を得られるだけの「価値」の創出が不可欠となる。昨年話題となった超高額マンションなど、富裕層向けの商品拡充も一つのアプローチだが、先述のアンケートへの回答や重大ニュースでも、脱炭素やGX、ソフトサービスなど、各社とも知恵を絞って新たな付加価値の創出を図る動きが散見された。

 同時に重要なのは、そうした価値を顧客に的確に伝え、納得を得ることだ。例え革新的で有用な工夫であっても、相手がその価値を認めなければ購買行動には結びつかない。例えば住宅の断熱性向上や既存住宅流通などと同様に、不断の努力で「価格に見合う価値」であることを伝えていけば、販売・仲介・賃貸、あるいはアセットタイプに関わらず、扱う物件のポテンシャルに最大限見合った報酬が得られるはずだ。

 この先、年内に大きな事業環境の変化があるかどうか、現段階で断言はできない。しかし日銀動向や金融政策に加え、事業スパンの関係で、「用地仕入れや建設工事契約などにおけるコスト上昇の影響が顕在化・本格化するタイミングだ」と指摘する声もある。そうした要因が複合的に影響し、中長期的に見た場合、24年は市場のターニングポイントの年となる可能性は低くない。こうした状況の今こそ基本に立ち返り、自分たちの提供する価値とその伝え方を再確認し、将来的な成長の礎としてもらいたい。