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酒場遺産 ▶26 新宿西口 バガボンド 絶滅危惧種の空間と濃密な空気感

 かつての新宿文化を色濃く残す老舗ジャズバー「バガボンド」を紹介したい。新宿西口駅近く小田急ハルク裏の通り、通りに面した扉を開け、2階への直線階段を上ると、そこは異空間。古き良きアメリカ、昭和の日本、様々なエキゾチックな装飾がミックスし、一種独特の空気を醸し出している。濃密なカルチャーのカオスに引き込まれる。階段正面には円形カウンターがあり、バーデンダーを交え話に興じる常連らしい客で一杯だ。1976年に店を開いた初代オーナー松岡国彦氏は美術に造詣が深く店の絵画や装飾を施したという。目立つのは平賀敬(1936年~)の作品だ。耽美的でエロティックな画風は、長年煙草の煙でセビア色となった壁と共に、この空気感をつくっている。店の名「バガボンド」とは漂流者の意、世界を放浪した松岡氏の下には多くのミュージシャンやアーティストが集まったという。

 カクテルは定番のモヒートやマティーニ、オリジナルカクテルまで幅広い。筆者はここへ来ると、まず生ギネス1パイント(900円)に名物の煮玉子、アボタコ(アボカド+タコ)からはじめる。飲物は麦酒各種、日本酒(菊正宗、吉ノ川、八海山、而今など)、焼酎、ワイン、ウイスキー、ジン、ラム、ウォッカ、テキーラ、カクテル類など、食べ物も豊富で手頃な価格、ミュージックチャージも500円と安い。そして1階の階段わきには、2階の喧騒とは対照的な静かなスタンディングバーがある。近くの焼き鳥屋「ぼるが」も「バガボンド」と同じく、かつての新宿カルチャーを色濃く残した店だ。いずれ再開発で消えてしまわぬうちに、これら絶滅危惧種の空間と濃密な空気感を味わっておきたい。(似内志朗)