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酒場遺産 ▶19 東京・新橋駅前第一ビル 「庫裏」 人と出会う昭和の酒場空間

 新橋にはJR駅を取り囲むように、東口と西口にひときわ築古の雑居ビル「ニュー新橋ビル(西口)」と「新橋駅前第1・第2ビル(東口)」が建つ。この一帯は1945年の東京大空襲で焼失、終戦後にはヤミ市が生まれた。その後にマーケットや飲み屋街となったが、市街地改造事業が行われ、66年に「新橋駅前第1・第2ビル」、71年には現在の「ニュー新橋ビル」が竣工した。近年、周辺で開発が進む中、これらのビルは区分所有のため開発が遅れ、貴重な昭和の酒場空間が残された。しかし既に再開発へ向けて再開発協議会が発足し残された時間は短い。駅前第1・第2ビル地下には、目を疑うほどの昭和的酒場空間が広がる。また別の稿で紹介したい。

 「庫裏」は第1ビル1階正面入口近い場所にあり、この酒場を愛する人たちでいつもにぎわう。極小空間の小さな店で、白木のカウンターの中の割烹着姿の女性たちが、キャッシュと引き換えに、ずらりと並べた一升瓶から酒を注ぐ。酒の品揃えは見事だ。半合300~500円で楽しむことができ、肴の小皿はどれも美味い。酒3品と肴2品の「おまかせセット」があり、初心者はこれから頼むと良いだろう。ひとりで呑んでいると様々な人と出会う。先日は、世界中を旅しているイギリス人の女性写真家と話をした。日本には年数度来るが、必ずこの店には立ち寄るとのことで女将とも仲が良い。またある時は、近くの広告代理店に勤める博学の若い男と話をして、日本酒の流通について教えてもらった。「庫裏」は新橋・銀座で4店系列店があるとのこと。ひとりでフラリ立ち寄るも良し、飲み会前のウェイティングバーとして仲間と待ち合せるのも良し。(似内志朗)