政策

社説 10年目の地方創生 潜在力を引き出す不動産業へ

 人口減少と少子高齢化への対応と、東京一極集中の是正により地方経済立て直し、活性化を目指した「地方創生」が国家戦略に位置づけられて10年になる。地価の下落も深刻化していた地方都市だったが、ここ数年は一部で地価が反転上昇し、そのすそ野も広がりつつある。地価底打ち、上昇が地方都市へ波及しつつあることは歓迎すべきだが、依然として人口減少と少子高齢化、東京集中という地方衰退の根本原因は取り除かれてはいない。

 本紙では、「不動産業と金融」が地方創生のカギを握るとみて、地方における不動産業の動向を検証するため「地域創生と金融」シリーズを年明けから始めた。そこから見えてきたものは、地方都市に特化して地元企業群と共に不動産の潜在力の最大化に挑む不動産業のあり方だ。

活発な地方展開

 「地方創生」の代表格といえばインバウンド需要に支えられた観光業だろう。コロナ以前は、年間訪日外国人数が年々うなぎ登りで、地方経済の活性化を大きく後押しした。コロナ禍ではEC市場が急成長し物流業界も活性化。これら事業領域への不動産業の参入、事業拡大も引き続いている。これらに加えて地域に広く経済波及効果を及ぼす都市基盤、経済基盤といった社会インフラ再構築が持続的な発展、活性化には重要だ。そうした視点で地方都市の不動産の潜在力に着目し、ひと・モノ・カネを地域で循環させて「地方創生」をけん引している不動産事業者も台頭してきている。

 「地域創生と金融」シリーズにも登場する3つのJリートは、地方都市の経済発展を目指す点で共通の運用方針を掲げる。地方特化の総合型をうたう点ではこの3リートは異色だ。その草分けが福岡リートで、九州を地盤とする地元財界の有力企業群がスポンサーとなるいわば九州連合リート。この福岡モデルを掲げて昨年上場したのが東海道リートだ。静岡拠点の地元ディベロッパーがメインスポンサーとなり、地域の有力金融機関や企業をサポーターに迎え、産業集積の著しい東海道圏に投資エリアを設定している。マリモ地方創生リートは、スポンサーの地元となる広島を外して全国の地方都市への分散投資を積極化している点で前出の2リートとは真逆の投資方針を掲げている。手法は異なるが、いずれのリートも地域に眠る豊富な優良物件の掘り起こしや競合の少なさなどを原動力にして、成長路線を突き進んでいる。

 地方都市経済の再生には、地域にある不動産のポテンシャルを最大化し、これを源泉としてひと・モノ・カネを域内で循環させ、更には集積させていくことが重要だ。3つの地方投資リートはそのよきお手本であり、地方発の日本経済再生の大きな足掛かりになると期待される。