総合

酒場遺産 ▶17 東京・阿佐ヶ谷 酒の三矢 裏の部屋 まちのコミュニティを醸成

 一度訪れたいと思っていた阿佐ヶ谷の角打ち「酒の三矢」。阿佐ヶ谷駅から長いアーケード「阿佐谷パールセンター商店街」を南へ10分ほど歩くと、左手に大正13年から続く老舗酒屋「酒ノみつや(三矢酒店)」がある。そして目当ての角打ちは、酒屋の裏手にある目立たぬ小部屋「裏の部屋」だ。相当に人気らしく、8畳ほどの狭い部屋は角打ちを楽しむ人で一杯だ。酒屋のレジで酒を注文する。麒麟山、景虎・四季桜原酒・寒菊・ヤマボウシ・北の杜・北安大国、この店でしか買えないというThe GANGなどが角打ち価格350~450円。その他、ビールやワインなど幅広く置いている。月に2度ほど「鮨川」の出張鮨職人の早川太輔さんが狭い部屋の片隅で鮨を握る。訪れた4月26日は偶然「鮨の日」だった。一貫200円で鯖・鯵・鮪・ホッキ貝・ホタテ貝・エンガワ・スズキ・ホウボウなどをオーダーできる。単品では、蛍烏賊なめろう・蒸し海老マリネ・磯ツブ貝煮つけ・ボラ白子ポン酢が500円、その他おまかせ刺身1000円などお手軽価格だ。

 「酒の三矢」は創業100年近いが、12年に「この街のコミュニティを取り戻すべく、酒飲み文化の基本」として角打ちをはじめ、何度か廃止・復活を繰り返し今の姿に至ったという。この店の面する阿佐ヶ谷パールセンター商店街は、鎌倉と北関東地域を結ぶ鎌倉街道の一部で800年の歴史があるという。「裏の部屋」は脇道の小さな公園に面している。仕事帰りにひとりで立ち寄るビジネスマン、女性客も多い。日も暮れ、公園からビールケースが積まれた「裏の部屋」を見ると、そこには確かなまちのコミュニティがあることを感じる。(似内志朗)