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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇89 FRP、コンプラ論確立へ 仲介は〝依頼者ファースト〟 業態の違いが課題に

 業界の悲願であるコンプライアンスの確立に向け、一般社団法人不動産流通プロフェッショナル協会(FRP)は6月6日、第3回目の勉強会を開いた。この日は同協会顧問の竹井英久氏による提言「クライアントファースト実現のために」を軸に議論が交わされた。

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 提言には(1)仲介業務は顧客ファーストではなく依頼者ファーストであるべき(2)賃貸の客付けと売買仲介とでは倫理規定を分離すべき(3)一部の覚醒した者たちから変革を遂げ業界全体の底上げにつなげていく――など斬新な視点が盛り込まれ議論を活発化させた。

 20名以上参加した会員らの多くは大筋で賛同したものの議論を進めるにつれ、それぞれの立ち位置やビジネス環境の違いから見解がすれ違う場面も見られた。FRP事務局はこれまでの積み重ねてきた議論を整理し、会員らの同意が得られたものから順次成文化していく方針だ。

 ただ、こうしたコンプライアンス確立への気運は高まりつつあるものの、勉強会後の懇親会でも「悪質な行為を平気で行う業者は依然として多い」との声が聞かれるなど、実態との溝は埋まっていない。勉強会では悪質業者をなくすには業界団体が自ら会員会社に対する厳しい審査基準を設けるなど自主規制を強めるべきとの指摘もあった。

 コンプライアンスが日本よりも数段高く確立されている米国を見ても全米不動産協会(NAR)という業界団体が果たしている役割は大きい。

「一生に一度」が障害

 日本では持ち家取得が「一生に一度」というのが一般的だが、そのことが日本の不動産業界にコンプライアンスが育ちにくい要因になっていると筆者は思う。日本人は仲介業者によって提供されたサービスに比べ仲介手数料が高すぎるなどの不満があったとしても、「今回きりだから」と諦めてしまう。あるいは、住宅購入体験がないため、価格査定などで重大なコンプライアンス違反があったとしても、それに気付かないケースもあるだろう。

 流通先進国のアメリカでは生涯に10回以上買い替えるケースもめずらしくないという。だからこそ、アメリカでは業界に対する消費者の目線が厳しく、エージェントの質や能力を判断するスキルが身についている。当然、業界は襟を正さざるを得ない。

住み替え市場拡大

 つまり、日本も住み替え市場を拡大することがコンプライアンス確立の早道になるのではないか。とはいえ、アメリカのように所得が上がるたびに持ち家を買い替えていくという状況は日本では期待しがたい。若い間は賃貸住宅での住み替えを中心とし、資産の蓄積に応じて持ち家での住み替え段階に移行していくというのが理想だろう。

 賃貸市場も含めた住み替え市場の拡大は、業界が今後の人口減少時代を乗り越える重要な戦略となる。そのためにも賃貸市場では単身者向けだけでなくファミリータイプを含む良質な賃貸住宅を増やす。更に住み替えの負担を軽くするため借り手からは手数料を取らないようにし、代わりに家主から受け取る手数料を自由化するという方策はどうだろうか。

 持ち家市場では、中高年になってからでも住み替えがしやすいようにリバースモーゲージの拡充や、住み替え促進につながる新たなローン減税策を検討する。

 今後、少子高齢化・人口減が加速する日本で、豊かな人生を確保するために住まいが果たす役割は大きい。子育て時代に購入した住まいが終の棲家になるようではますます空き家が増大する。住まいはさまざまな思い出が積み重なってこそ愛着がわくという日本的感性も捨てがたいが、核家族社会ではそれもむなしい感傷に終わる。賃貸と持ち家、両市場を有機的に捉えた住み替え市場の形成が住宅不動産業界のコンプライアンス意識の向上につながっていくことを期待したい。