総合

社説 好業績に死角はないか 抱える在庫に潜む落とし穴

 過去10年間に及ぶ大規模金融緩和は住宅・不動産業界に大きな恩恵をもたらした。新型コロナウイルスへの対応も有事から解放され、経済活動が加速する期待が膨らむ中、住宅・不動産各社の決算発表は、大手を中心に好業績が相次いだ。 だが、各社の株価は過去の好業績時のような勢いはない。なぜか。将来の不動産市場に対する不透明感がぬぐい切れていないためだ。少子高齢社会・人口減少に伴う国力の衰退が霧を濃くする。世界経済の減速懸念や、日銀・植田総裁下で想定される金融政策の変更なども影を落とす。

 リーマン・ショック時には不動産業界に破綻の嵐が吹き荒れたが、基本的に当時の不動産ミニバブルの波に乗った会社がマーケットから消えた。安定収益源を確保せずに土地・建物を買い集めて棚卸資産を膨大に買い込んだ会社だ。バブルがはじければ在庫比率が高いほど淘汰の憂き目に遭う確率が高まる。08年8月に黒字倒産に追い込まれたアーバンコーポレイションは在庫比率が全資産の8割程度まで積み上がっていた。

 そもそも住宅・不動産業界は、他の業界に比べて棚卸資産と有利子負債が多い体質を持っている。植田総裁下の向こう5年の間に金利上昇が待っているのだとすれば在庫管理の厳格化は欠かせない。 地価が上がり続ける、不動産価格が上がり続ける、といった状況であれば在庫は宝の山となり得るが、景気悪化に見舞われれば損失が膨らみ存続を危うくする癌(がん)が芽吹く。適正な在庫水準は棚卸資産の回転率と回転期間で把握できる。一般的に不動産業界の適正な回転期間は8カ月程度とされ、棚卸資産を売上高で割り出せる。回転率は売上高を棚卸資産で割り出す。回転期間は数字が小さいほど健全であり、回転率は数字が大きいほど健全と判断される。

 自己資本比率や借入金の回転期間でも会社の健全度を測ることができるが、市況悪化時には銀行が資金を絞り込みやすい。金融機関から支援が思うように得られず、市況悪化で在庫処分もうまくいかずに資金繰りに窮し、自己資本を食い潰して債務超過に陥ってしまう。特にマンション専業の中小デベやリノベ再販業者は、用地や物件の仕入れがチキンレース(度胸試し)のような展開にならないことを祈りたい。ブレーキの踏みどころを間違えれば命取りとなる。

 低価法により在庫を塩漬けにもできない。膨大な棚卸資産には評価損計上のリスクもはらんでいる。バランスシートから外せる旨味からSPCを積極的に活用する事業者が増えたがSPCの評価損は要注意の一つだ。負債がノンリコースであるため、損失は出資金額に限定されるものの、そのエクイティ(出資)残高が大きいほど評価損は膨らみ金融機関や投資家からの評価に影響する。これまでの設備投資のタイミングと棚卸資産の推移を検証すべき時に来ていると言えよう。