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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇86 もう一つの〝空き家問題〟 「その他」より深刻? 冷めた見方の「賃貸用」

 空き家問題といえば、もっぱら「その他空き家」(利用されていない持ち家)が中心課題となっている。その増加率が98年からの20年間で約2倍と急ピッチだからだ(18年住宅・土地統計調査)。しかし、空き家総数849万戸のうち431万戸(51%)を占める「賃貸用空き家」に対する問題意識がすっぽりと抜け落ちている感がなくもない

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 「その他空き家」の戸数は349万戸で空き家総数に占める比率も41%とそれなりに大きいものの、それぞれのタイプ別住宅総数に対する空き家率(筆者計算)を見ると、「その他空き家」は全持ち家ストックの9.5%に過ぎない。

 それに対し、「賃貸用空き家」は全借家の18.4%にも達している。公営・公団・公社を除いた民営借家だけでみればおそらく20%を超えているだろう。13.6%という住宅総数に占める空き家率は、シェアの大きい「賃貸用」の空き家率が全体を引き上げている格好となる。

見えない改革

 「その他空き家」は使われなくなった個人の持ち家だが、「賃貸用空き家」は同じ1棟でも集合住宅ゆえに、より社会性が高い問題となる。 老朽化した分譲マンションの建て替え問題が同じく個人所有の持ち家より重視され、重要な政策課題になっているのも同じ理屈だろう。ところが空き家に関してはなぜか政策の軽重が逆である。その背景には本来なら社会性が高いはずの賃貸住宅だが、賃貸ゆえに分譲よりも軽く見る傾向がありそうだ。

 だがそれ以上に気になるのは、これまで賃貸住宅を供給してきた業界が、これ以上賃貸の空き家を増やさないために今後何をどうしようとしているのかがよく見えてこないことである。

 10戸のうち2戸が空き家という賃貸市場だが、貸家の新設着工戸数は近年再び増加傾向にある。コロナの影響で20年度こそ前年比9%減の30万戸に落ち込んだが、21年度には早くも33万戸に回復し、22年度は35万戸と2年連続で増加した。単月でも今年3月で25か月連続で増加中だ。

 貸家の着工推移を長期的に振り返ると、15年1月に実施された相続税強化(基礎控除額引き下げ)への対応で15年度38万戸、16年度43万戸と急増したが、その後は20年度まで反動減が続いた。近年の増加傾向の背景にはこのところの地価上昇を受けての追加相続税対策、建築費や金利上昇懸念に対する駆け込み需要などが取り沙汰されている。

依然オーナー寄り

 このように貸家着工戸数は税制や金利動向に影響されがちである。そしていまだに貸家は個人地主や法人による土地活用手段という色合いが強く、供給側もそうしたオーナー側の事情しか見ていないのではないかと思われる。

 持ち家も賃貸も空き家対策の根本は「空き家を発生させない」ことである。そのためには、住宅という人間の寿命をはるかに超える建築物を供給する以上は、何年経っても多くの人がそこに「住みたいと思う」環境を醸成していく発想が求められている。

 分譲マンションも同じだが、見ず知らずの人たちが集まって暮らす集合住宅にはそうした発想が組み込まれていなければ、いずれ年月と共に陳腐化していくだろう。

 賃貸についていえば、そうした未来志向をオーナーと借家人とが共有し協力し合っていく必要がある。その点は対等な区分所有権者が集まっている分譲マンションよりも、一人のオーナー(リーダー)とそこに複数の借家人が参集するという構図を持つ賃貸住宅のほうがやりやすいように思える。まして、オーナーの相続対策だけのための賃貸住宅などは今後急速に時代遅れの産物になっていくことは間違いない。

 業界もそろそろ住宅を耐久消費財と捉える思考から脱却すべきだ。消費から豊かさは生まれない。所有しないがゆえに消費するという思考をも持たない入居者からなる賃貸住宅には、新たな住文化が芽生える大きな可能性が秘められている。