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酒場遺産 ▶5 東京・神田駅前北口 「立飲み大松」「神田 伊勢本店」 いわし料理と老舗焼き鳥店

 JR神田駅北口のガード付近から中央通りを東へ進み山手線高架沿いに秋葉原方面に延びる斜めの道に入る。商店街というほどではないが、個性的な小さな店が並ぶ。その斜めの道がはじまる三角の土地に、いわし料理の立ち飲み店「大松」と鶏料理の店「伊勢」が並ぶ。

 「大松」は酒場愛好家の間では知られた店で、厨房をぐるりと囲むカウンターにはいつも、いわしと酒を楽しむ客であふれ、壁にはメニューが所狭しと貼られる。鯉口シャツの板前が格好いい。お薦めは、いわし刺身、なめろう、南蛮漬け、海鞘塩辛、(いわしの)酒盗和えなど。そして鰹、鮪刺しなども新鮮で、つまり何を頼んでも美味い。どれも500円前後だ。日本酒も定番の菊正宗樽酒、地酒は吉乃川、紀土、銀盤、高千代など豊富に並ぶ。酒好きには堪らない酒場だ。

 「神田 伊勢本店」は創業80年の老舗焼鳥専門店。以前はJR神田駅北口出口の並びにあったが、数年前に鉄道高架改修工事で現在の位置に移転した。白木のカウンターで飲むもよし、季節の良い時には通りのテーブル席で、街の喧騒の中で飲むもよし。店の能書きには「当店の焼鳥は創業以来専用に放し飼いにして育てた地鶏(特に4、5か月のメス)のみを、早朝にしめ自家で捌いたものだけを……」とある。さすがに鶏の美味さは他の追随を許さない。ささみ、レバ、ハツ、もも、ねぎま5串がセット850円、単品なら2串350円と手頃だ。手羽先、皮、ぼんじりなども美味い。シメの親子丼もいい。以前、独特なタレと卵黄を絡めた「たたき」があった。あまりに美味くて4皿食べたところで打ち止めにされたことがある。復活してくれないだろうか。(似内志朗)