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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇73 住まいの質とはーー 野村不がスモールミーティング ライフスタイルとの親和性重要に

 例えばある部屋の大きな壁に一幅の絵が掛けられていて、その絵が醸し出す雰囲気と部屋全体の陰影がマッチしている。例えば朝日が部屋に差し込み、その光の中に座っていると一日の気力が湧いてくる。例えば門扉から玄関扉まではほんの数歩しかないが、そこを歩くときはいつも心が穏やかになる。住まいの質とはそういうものだ。

 決して専有面積が小さいとか、天井高が低いとか、最新の設備が付いているかいないかで決まるものではない。住まいの質とはなにか。ひとことで言えば、目には見えないが、そこに満ちている不思議なエネルギーのようなものである。 

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 住まいには機能、性能、品質という3つの要素がある。例えばコロナ禍で俄かに注目されるようになったのが住まいの機能である。オンライン会議のための部屋が欲しい、外出先から帰ったらすぐ手洗いができるような設備や洗面所への動線が欲しいなど。

 性能とは断熱性や遮音性のことだが、コロナ禍で在宅時間が増えたためか、例えば趣味の楽器演奏を思う存分楽しめるような高い防音性能に対するニーズも強まっている。

 こうした住まいの機能や性能に対するニーズの変化がコロナ禍での住宅取得マインドを急激に高めたことはよく指摘されている。

 例えば、野村不動産の独自調査「顧客趣向性の変化」によると、首都圏での住宅購入に前向きな人は(問い合わせ・来場者対象)21年は79.3%と一気に約8割にも上昇した。コロナが始まったばかりの20年の調査では、まだ購入マインドに「変化なし」が約7割を占めていた。今年の調査では73.4%と21年に比べ約6ポイント低下したが、それでも「依然高い水準」と同社では分析している。

 つまり、こういうことではないか。住まいに、自分の趣味あるいは生きがいとの親和性を求める人たちがコロナを機に増え始めたということだ。ただ、それはコロナ禍がきっかけになったことは確かだが、より正確に言えば、人と住まいとの本来の関係に人々が目覚め始めたということだと思う。

〝個〟に寄り添う

 人はその趣味も生きがいも様々。そして、人が一日のうち最も長い時間を過ごすのが家である。だから住まいは、住む人それぞれの人のために造られるべきもので、決して大量生産されるべきものではない。それが住まいの本質である。

 野村不動産のブランド・ミッション「世界一の時間へ」は、住むことだけでなく、働く、憩うなど様々な瞬間で一人ひとりが過ごす時間が豊かになるように〝個〟の時間に寄り添う姿勢を示したものだ。

 少子・高齢化で日本の住宅マーケットは先細りといわれている。しかし、それは市場をマス(集団)でしか見ていないからだ。〝個〟に寄り添う視点をもてばマーケットは無限に広がっていく。

 人口減少で〝縮む時代〟だからこそ、住まいの本質を追究すべきときである。今こそ約700年前、吉田兼好が徒然草で述べたごとく、「住まいは人なり」である。

 野村不動産は11月30日、報道陣と行った会合の席で〝個〟に寄り添う姿勢を強化するため、住まいと暮らしの総合サービスサイト「ノムラノクラスマ」を新たにリリースしたことを発表した。多様な検索機能が搭載されたが、筆者が注目したのはAIコンシェルジュとのチャット。住まい、お金、仕事、健康、家族友人、趣味の6分野があり、対話を進めていくと意外に知らない言葉に出会ったりして勉強になる。

 住まいを探すことは、その人にとっては新たなライフスタイルを叶えること。この当たり前のことに気付かない不動産事業者がいまだに多い。 ライフスタイルとはまさに自分の命(ライフ)、その大切な時間をどう使うかということだから、住まいのプロに心ゆくまで話を聞きたいのが消費者の心理である。AIコンシェルジュとの対話はそのほんの入り口部分となる。