総合

彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇69 自由の正体 オフィス革命が迫る 大人の〝自分探し〟

 今のように世の中が信じられないときは、人は自分を信じて生きるしかない。だから、自分というものをもっていることが大事になる。

 では、自分とはなんだろうか。特に社会人といわれる大人にとって、自分とは職場の中の自分であることが多い。その職場と自分との関係が〝働き方改革(オフィス革命)〟によって大きく揺らぎ始めている。

   ◇      ◇

 働き方改革の象徴はシェアオフィス(コワーキングスペースとかサードプレイスなどとも呼ばれる)の伸長である。サードプレイスの先駆者ザイマックスが展開する法人会員制のサテライトオフィスZXY(ジザイ)の拠点数は現在264、この2年間で約2倍に伸びた。会員会社が登録している利用者も1年半前から11万人増加し51万人となった。この趨勢は今後も続く見込みで地方都市への展開も始まっている。11月8日に開かれたSATOUフォーラムで講演した同社の辛島秀夫副社長はこう語った。

 「当社がこの事業を開始したのは2016年。ICTの進化、人手不足、通勤ストレスなどを背景に多くのワーカーや企業が〝働きやすさ〟を求め始めていた頃だ。営業職のみならず、企画職、事務職にもリモートワークが広がりつつあった。そこで、これからは働く場所が必ずしも固定的なものではなくなっていくのではないか、という仮説に基づいて事業化に踏み切った」

 「当時のサービス名称は『ちょくちょく』。新宿などのオフィスエリア数店舗で開始した。そこにオリパラ、更にはコロナ来襲による出社制限が重なり多くの企業が在宅勤務を余儀なくされた。本来なら数年かけて進んでいくとみていた変化が一瞬でパラダイムチェンジを起こした」

 ザイマックス総研によれば、シェアオフィス市場の全体規模は現在約21万坪で1080拠点。オフィス床面積ストックの1.6%だ。

 同フォーラムの主宰者で毎日リビング会長の佐藤一雄氏は言う。「シェアオフィスが多いといわれるニューヨークやロンドンにおけるその比率は3~5%なので、日本でもまだまだ伸びるのではないか。日本では今のところメインオフィスとの組み合わせ・補完関係が基本だが、中にはNTTグループのように補完関係をなくし、リモートワークをスタンダードとする会社も現れるなど注目すべき変化も起こっている」。

リモートスタンダード

 そのNTTが今年6月に発表したニュースリリースにはこうある。

 「これまで、リモートワーク制度・リモートワーク手当・スーパーフレックスタイム・分断勤務・サテライトオフィスの拡充等により、社員の「働く時間」や「働く場所」の自由度を高めてきたところでありますが、ワークインライフ(健康経営)をより一層推進するためには、 「住む場所」の自由度を高めることが重要であるとの認識に立ち、このたび、新たに日本全国どこからでもリモートワークにより働くことを可能とする制度(リモートスタンダード)を導入することとします」

 何事においてもそうだが、自由度が高まれば高まるほど人は自立心を持たなければならない。自ら自分を律し、導き、行動し、その責任を取らなければならない。「サラリーマンは気楽な稼業」(植木等・ドント節)ではなくなったのである。

 問題は人間はもともと怠惰だし自分をごまかし、楽に生きるのが好きな生き物だということだ。働き方改革にしても会社主導で動いている。

 時代は働く人間一人ひとりが自分はどういう仕事をなんのためにしたいのかということに自ら気付くことを求めている。

 では、その気付きはどこからやってくるのか。結局は日常の暮らしの中に自分の本音を見出す感性を磨くしかないのではないか。

 ただ、これだけは言えるだろう。推敲を重ねた文章が美しいように、慣れ親しんだこれまでの思い込みを極限まで削ってこそ、見えてくる自分がある。