政策

社説 金融庁が業務停止命令 リート運用会社は意識改革を

 上場リートの運用会社であるエスコンアセットマネジメントに対し、金融庁は10月14日まで3カ月間の業務停止命令を出した。親会社が持つ不動産をリートに高値で買わせようと、不動産鑑定会社に高値で鑑定額を出すよう働きかけたためだ。鑑定業者の選定プロセスも含めて不適切だとして処分を下した。利益相反の懸念は、Jリート創設時から指摘されてきたもので、不祥事も今に始まったことではない。過去にも業務改善命令を受けて経営難に陥り、最終的に他リートと合併して姿を消したケースもある。今回の業務停止命令は15年ぶり。投資家を欺く行為は市場創設から20年がたってもなくならない実態を浮き彫りとした。スポンサー間との利害関係の要素が排除され、Jリートそのものが独自で成長できるような仕組みや制度が必要だとの指摘も関係各所から聞かれるが、自浄作用が働かない現状からは親会社の業績補完機能のみを目的とする器に見える。

 Jリート成長は物件取得が欠かせない。分配金を安定的に払い続けるために一定の頻度で公募増資を実施し、キャッシュフローの源となる運用資産を増やす。投資口を購入する国内外の投資家たちは、その増資で得た資金の使い方に機敏に反応し、売主と価格交渉をした形跡が見られないと判断すれば、公募増資が評価されずに投資口価格(株価に相当)を大きく下げることも珍しくはない。公募増資により1口当たりの利益が希薄化するうえに目線の合わない価格での物件購入に投資家から失望の声が上がるのは当然であろう。

 今回のケースは交渉する云々以前の問題である。「親会社の業績のために、親会社が売る不動産をなるべく高値にしてくれないか」というあからさまな行為だ。投資家との対話はできているのか。

 過去にリーマン・ショックで赤字に転落した不動産会社が系列リートに保有物件を売却して翌年黒字に転換するなどスポンサーの業績補てんが目的ではないかとみられる取引も散見され、特に海外投資家の反応が冷ややかだった。

 運用会社は意識改革が求められ、ファンドマネージャーと同様に投資家に対する善管注意義務を負っていることを忘れてはならない。投資家からお金を預かり運用を委託されているという自覚が欠如していると、単にグループ間で不動産を転がして親会社の数字を作り出しているに過ぎないと見なされかねない。そうならないために鑑定会社が不当な要求をはねつけ独立性を担保する仕組み構築などに期待したい。

 国土交通省によれば21年度の証券化対象不動産の資産総額は約46.8兆円と15年から約17兆円増えた。企業が保有する不動産の流動性もコロナ禍で高まっており、Jリートの成長土壌は大きいとみられている。ただ、スポンサーに顔が向いたまま投資家を侮った運用のツケは後に跳ね返ってくることも肝に銘じておくべきだ。