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夏季特集 勝ち残る住宅・不動産業の条件 メタバースが新しい未来を切り拓く   不動産業界にアバターが 

 これまで、ゲームや音楽などのエンターテインメント領域で注目されてきた〝メタバース(仮想空間)〟は、ビジネスの場面でも活用が始まった。場所や時間の制約を超えて、音声や映像、テキストなどの圧倒的な情報量を搭載し、アバター(分身)が自由に動き、交流できる。その世界観は、決して未来の、特別なものでもない。いずれ企業は、従来の「ホームページ」を開設したような感覚で構築することになりそう。不動産領域でも、内見や展示場などの場面から確実に広がるとみられている。

 STUDIO55(東京都港区)は、正規日本総代理店として、ポーランドの建築プレゼンテーション用ソフトウェア『Shapespark』(シェイプスパーク)を用いて、大和ハウス工業が4月に開設した、住宅業界初という『メタバース住宅展示場』を制作プロデュースした。

 オンラインの3D(3次元)空間では、来場者と営業担当者が人の形を模したアバターとなり、自由に歩ける。現実空間と同様に内覧や説明を受けられる。アバターは実際の人の顔画像を投影し、身近に感じながら打ち合わせする。専用アプリケーションが要らず、住宅会社が発行するURLをクリックし、パソコンやスマートフォン、タブレット端末から誰でも簡便にアクセスできる。また、バーチャル(仮想)オフィスや、プレゼンテーション向けの空間もメタバースでは構築できる。

 メタバースの構築はこれまで、数千万や数億円の多額な費用や企画段階からの長い開発期間、高度な専門技術が必要だった。それならば、活用できるのは大手企業だけなのだろうか。そうした課題を解消するサービスが始まった。

 Fabeee(東京都千代田区)は、メタバースの基本機能をあらかじめ搭載して企業向けに〝パッケージ化〟したサービス『Fabeee Metaverse Package』(以下・FMP)を同社の〝国産〟で開発し、4月に提供を始めている。

簡便にすぐに構築できる

パッケージサービスの提供始まる

 FMPは、「開発期間の短縮やコストを低減して、企業が手軽にすぐに構築できる」(Fabeee取締役CTOの杉森由政氏)。基本機能で「音声チャット」や、VR(仮想現実)機器を装着して腕や手を動かすと、アバターに反映して手を振るなどの特定の動作を行える。アバターは空間を自由に歩き、走り、ジャンプする。現実空間のパソコン内などに保存した資料や写真などを仮想空間のホワイトボードやディスプレイに投影し、情報共有も容易になる。

テンプレートで

 そのメタバースの空間は、テンプレート(ひな形)で用意している。現状は4つのタイプで、「会議室」「カンファレンスルーム」「アパレルショップ」「デザイナーズマンション」の中から選べる。

 活用する企業側のイメージに合う家具などを数万点から選び配置し、空間を演出できる。「企業が〝自社らしさ〟を表現した仮想空間では、最大で20人が同時接続できる。各種のイベントを開催できるなど、社内外の交流の機会が生まれる」(同社の杉森氏)。

境界線をなくす

 同社は、創業当初から、「オンラインとオフラインの境界線をなくす」を目標に掲げている。主力事業の1つがメタバースで、「子供たちの未来を切り拓く〝新時代〟の入り口にしたい」(同社代表取締役CEOの佐々木淳氏)との強い思いを込めている。

 しかし、メタバースは、「当面は広告・宣伝や、マーケティングで活用されるが、メタバースらしさの正解の形はまだない。正解に近付くには、単に企業のホームページの〝代替え〟ではなく、現実空間とつながりつつ、従来の方法を〝補完するもの〟ととらえれば、柔軟な使い方の発想が生まれる。利用者の満足度や幸福感さえも高まるのではないか」(同社の杉森氏)。

 更に、「オンラインとオフラインを自由に行き来しながら〝出会い〟の選択肢が広がる。人前に出ることが苦手な人でも仮想空間ならば、いきいきとできるかもしれない。普段の生活、学校にも広がる可能性がある。そこから今後の〝新しい何か〟が生まれていく」(同社の佐々木氏)。

法的保護などの課題も

 メタバースの用途は広がり始めている。Aww(東京都渋谷区)は採用面接を、HIKIYOSE(東京都文京区)は本社の一部機能の移転を始めている。活用の後押しとして、メディアエクイティ(東京都品川区)は専門建築家を募り、Ⅹ(東京都港区)は専門設計事務所を設立した。

いまだ黎明期

 PwCコンサルティング(東京都千代田区)が3月に実施した、『メタバースのビジネス利用に関する日本企業1000社調査』によると、回答企業の半数近い47%がメタバースを認知しているが、関心があるのは10%にとどまる。ただ、複数回答可で、メタバースは「新規ビジネスの創出」(47.4%)、「営業力の強化」(33.6%)、「顧客サービスの向上」(33.0%)になると回答。脅威と考えるよりも前向きに〝チャンス〟と考えている企業は少なくない。ただ、同調査で指摘するようにメタバースは、「いまだ黎明期」の段階にある。

 この背景に、KDDI(東京都千代田区)や東急(東京都渋谷区)などで構成する「バーチャルコンソーシアム」は、『バーチャルシティガイドライン』を4月に発表し、「発展途上のメタバースは、プライバシーなど法的な保護や、相互運用など経済的連携で整理すべき論点が多い」と課題点を指摘。メタバース推進協議会(東京都千代田区)と、セキュアIoTプラットフォーム協議会(東京都港区)は不正利用を防ぐ『セキュリティ指針』を秋に策定する。

 メタバースは〝模範〟の姿は現状で出ていない。企業がその最適解を見つけるのは少し先になりそう。だからこそ近い将来の話ではなく〝今〟始めれば、次の未来を切り拓いていけるかもしれない。