総合

創刊75年記念企画 SDGsと不動産業 パーパス経営が導く17の目標

 国連が15年に採択した〝持続可能な開発目標〟のSDGs。その提唱から、目標として設定された30年までの折り返しのタイミングに差し掛かっている現在、ほぼあらゆる分野・領域でこのSDGsに賛同する動きが広がっている。そうした中、足元では国内の不動産業界においても対応する動きが加速している。同時に、特に中堅から中小規模の不動産関連企業においては、自分たちの事業との具体的な関連性が把握しきれていないことなどから、まだ現実的な対応には及び腰なケースも見受けられる。そこで「SDGsと住宅・不動産業界」をテーマに、SDGsへの対応の考え方や不動産関連の各分野における動向を整理し、業界の各主体が理解と行動を進める上での参考となることを目指したい。【住宅新報SDGs特設取材班】

馬場滋日本経済広告社上席執行役員・SDGs特命担当に聞く

 「自社の〝志〟示す機会に」

 日本経済広告社で長年ディベロッパーを担当し、特にマンションの調査や販売戦略検討などマーケティング全般に携わってきた馬場滋上席執行役員・SDGs特命担当。同社のSDGsへの取り組みをけん引すると共に、これまで培った知見を生かして、住宅・不動産業界内外の幅広い分野とSDGsについて、講演などの活動を精力的に行っている。今回は、住宅・不動産会社とSDGsとの関わりのほか、SDGsに向き合う上での基本的な考え方について話を聞いた。(聞き手・佐藤順真)

問われる地域社会における存在価値

 17の目標と169のターゲットからなるSDGs。その対象範囲は多岐にわたることなどから、全容やその精神の周知が進みにくい一面がある。特に中小規模の不動産会社などではその必要性や対応の考え方についての理解に温度差があり、具体的な取り組みについては発展途上というのが実情だ。

 そうした現状を踏まえ、馬場氏は「(個別具体の)難解な部分や対応に労力を要する部分ばかりを見るのではなく、まずSDGsの根本的な趣旨や精神を見てほしい」と呼び掛ける。また地域に密着し、社会や人々の生活に根差した事業を営む不動産という事業分野は、「最もSDGsに近い業界かもしれない」とも述べる。不動産業界こそSDGsの目標に直接関わる領域の一つであり、取り組む意義が大きいという考えだ。

 一例として、マンション開発に対する姿勢がある。〝マンションは開発・販売が済めばそれで終わり〟という方針ではなく、その後も地域と共に歩むマンションの将来を考えた事業計画を意識し、主体的に関わっていくことが「つくる責任 つかう責任」(目標12)などに直結するという指摘だ。

パーパス経営の発想で

 とはいえ、SDGsは〝社外から求められてやむを得ず対応するもの〟ではない。馬場氏は、「自分たちの会社が何のためにあるのか、SDGsを通じて見つめ直す機会にしてほしい」と話す。

 そこで重要になるのが、「パーパス経営」という発想だ。パーパスとは一般に「目的」「意図」といった意味だが、この場合は特に「存在意義」を表す言葉。「社外に対する〝けじめ〟や責任」(馬場氏)であるミッションやビジョンの更に上位概念で、内側から発生する〝志〟や信念に当たる。

 自分たちの会社が何のために存在し、未来のために今、何をすべきなのか。それを表すものが企業の〝志〟だ。SDGsも同じく、目指す未来に向けた行動や考え方をまとめたもの。併せて考えることで自社の〝志〟が明確化できるだろう。

 ただし、「その実践は簡単ではない」と馬場氏は語る。トップダウンで表面的な方針や取り組みを打ち出すことができても、企業の〝志〟までは具現化できない。「まず社内にSDGsのスペシャリストを1人育成・配置し、その人材と経営トップが協力して進めていくことが効果的だ」とアドバイスする。その上で「自社の〝志〟を発信し、社内での共有と浸透を図っていくためにも、SDGsに取り組むことを推奨したい」と述べた。

 このように住宅・不動産業界の各企業にとって、SDGsへの取り組みはある意味で身近であり、また企業の根幹とも結びつくものだ。そして「すべてのステークホルダーに価値ある〝志〟を示すことが競争力強化につながる」ため、個別施策におけるメリットやデメリットを考えて慎重になりすぎることなく、〝自分ごと〟として積極的にSDGsに向き合っていくことが大切だと馬場氏は熱を込めて語った。