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オークションに再脚光 迅速で透明な取引過程を訴求 売り物件減少が背景か

 リストインターナショナルリアルティ(LIR)はこの4月、オークション方式での不動産販売を始めた。世界規模で高級不動産オークションを展開しているコンシェルジュオークション(米国ニューヨーク州)と業務提携した。住友不動産販売は昨年9月、売り物件情報を提携先の買い取り業者に一斉発信する「ステップオークション」の本格導入を始めた。オークションは一般的な仲介と比べて、取引過程の透明化、価格交渉が不要で迅速な売却が可能といったメリットがある。最近のオークション事情を取材した。

 不動産オークションは00年代初頭に「アイディーユー」という当時のベンチャー企業がネットで「マザーズオークション」を展開。価格決定に至る透明性・合理性が受け、注目を集めた。大手不動産会社も共同で「オークス」というオークションサービスを展開していたこともある。しかし、オープンな市場での不動産取引が日本文化にはなじまなかったのか次第に頭打ちになっていった。

■差別化戦略

 そのオークションが再び注目を集めようとしている。きっかけは住友不動産販売が21年9月から本格導入を始めた「ステップオークション」。これは売主の希望や物件特性(個人では買い取れない大型案件など)に応じて本社の専門部署が、提携する全国6000社超の買い取り業者に、一斉に情報発信するサービス。業者間の競争原理を働かせ、売主のために早期の高値売却を目指す狙いがある。

 従来は住友不販の店舗ごとに周辺の地元業者に電話やファクスで物件を紹介していたため時間や労力が掛かっていた。これを本社が一括して物件情報を収集、DXを活用して全国一斉に情報を発信して、期限を区切って宅建業者からの購入申し込みを一元的に受け取り、そのつど売主に連絡する仕組みを構築した。売主にスピーディにより良い条件の買い手を紹介できるのがメリット。本格稼働から8カ月が経ち、同社によると「手応えを感じている」と言う。

 売主向けサービスを強化することで、売り物件の減少傾向が続く現市場では効果的差別化戦略と言えそうだ。 

■高級不動産も

 一方、LIRは世界規模の不動産ネットワークを持つリストの連結子会社で、10年に高級不動産ブランド「サザビーズインターナショナルリアルティ」の日本国内における独占営業権を取得し、富裕層向け高級不動産売買の取引も行っている。今年4月からは世界最大の高級不動産オークションを展開するコンシェルジュオークション(米国ニューヨーク州)と業務提携を行い、LIRが扱う不動産のオークション方式での販売を開始した。

 現在、1件(別荘)が出品中。同社銀座オフィスの福島麦支店長は、「急いで売りたいという売主の意向があり、オークションを勧めた。『サザビーズ』というブランド名なので、以前からオークションができないかと問い合わせを受けることがあり、取り組んでみたいと思っていた」と話す。高級不動産を扱う同オークションは、入札する(買い手)には事前に日本円で1300万円相当のデポジットが必要で、まさに富裕層向け。

 一般的にはまだ不動産オークションは特殊な方法だ。福島支店長は「売却を急ぐケースのほか、海外から人気の高いスキーリゾート物件、ペントハウスといった物件にはオークションがなじむと思う。一般の物件については、今後オークションを利用したいという顧客ニーズが確認できれば、外部の仕組みを使って挑戦したい」と話す。

■全日も注目 

 全日本不動産協会は4月、会員業務支援の一環として、クラウド型の「マザーズオークション・ウィズジョン」を運営するジョン・アンド・マザーズオークション(京都市)と提携した。同オークションは、登録した不動産仲介業者が物件の売主と専属専任媒介契約を結び、その業者が買い手候補者を集めてオークションを主催する、いわゆるクローズ型。オークションは取引価格を決めるための手法であり、そのほかの業務は通常の仲介と同じだ。売主から見て価格がどのように決まったのか、その過程が透明化される。会員にとっては、営業ツールの一つとして持つことで、売主確保の選択肢が広がる。

 オークションによる入札は基本的に〝せり上がり〟となるため、高値売却を目指す売主のためのシステムといえる。もちろん、買主にとっても交渉権が申し込み順ではないため、定められた期間内ではあっても自分のペースで購入を検討することができるというメリットはある。しかし、より本質的には売主のための仕組みとなるため、主催する不動産会社にとっては売り物件確保の効果的な手段となる。ちなみに、東日本不動産流通機構によると、首都圏市場では中古マンションは18年度、中古戸建てと土地は19年度をピークに新規登録件数が下がり続けている。1件でも多く物件を仕入れることが現状の緊急課題となっている。

■定着の条件

 ピタットハウスネットワークの「マイホームオークション」は98年にスタートし、業界初のオークションと言われている。今日まで継続してオークションを導入し続けている背景はどこにあるのだろうか。同社代表取締役の早川哲氏に話を聞いた。

 「(両手狙いではなく)広く買い手を募るほうが売主のためになるという考えを当初から持っていたので、売却方法の一つとして継続しているまでのこと。また、企業が所有している遊休地や社宅を売却する際は入札で買い手を決めるのが当たり前になっているが、それがエンドユーザーにも広がってきたのだとも理解している」。現在、同オークションは、基本的には店舗ごとに実施。オークションによる売却案件があれば、購入検討者にその旨を説明し、入札期日までに入札箱に入れてもらう。最高価格を書いた人に交渉権が与えられる。以前は外部のオークションサイトで実施したこともあったが採算が合わず、また、「やはり顔が見えたほうが安心」という声もあり、今は各店舗主催で随時実施している。店舗によっては、一定期間内に買い手が現れなければ(落札されなければ)、買い取る方法を買い替え客などのために提案することもあるという。

 また、早川氏は「売主へのメリットが強調されるオークションだが、買い手にとってのメリット(買いを焦らされることなく、一定の透明なシステムの下での検討が可能)も大事にするよう心掛けてきた」と語る。

 売り物件の減少傾向が今回のオークション人気の背景にあることは間違いなさそうだ。では、オークションが不動産市場で定着していくための条件とは何か。早川氏が指摘するように、売主・買主双方にとってのメリットを更に明確化し、仲介市場活性化の一助として一般仲介とは違う選択肢を広げるという発想を不動産業界全体が持つことではないだろうか。

       (井川弘子)